楽園(2019)のレビュー・感想・評価
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楽園は自分の心に…
社会に出て、出会う人やあるいは
仕事で、何て理不尽なんだっ!と
憤慨しながら、やり切れなさに
友と弱いお酒を飲みながら、
くだを巻いていた頃を
何となく思い出しました。
わたしが間違っているんだろうか、
わたしがおかしいんだろうかと…
フェアに生きようとすると叩かれ
息苦しく、いつの間にグレーに
染まっていった若かりし頃の
切ない思いが蘇りました。
でもそれが世の中で、理不尽な
中を生きて行かなければならない。
でも幸せも同じくらいあることに
なかなか気づけない。
つい、後ろばかりを振り向き、
奈落のスパイラルに迷い込む。
優しい人が生きにくい世の中って
間違っていると思うけれど、
そんな時に救ってくれるのは
音楽であったり、本であったり、
絵画を観に行くであったり、
素晴らしい映画や友に出会うことで
あったりする。
生きていくのに必要不可欠で
ないものが、人生を変えては
くれなくても、そっと寄り添ってくれる。
一歩踏み出す勇気をくれる。
誰1人幸せな人が出てこなかった
作品だけれど、その中に
楽園を探すヒントが隠れていたように
思いました。
理不尽への1番の戦力は、
心を豊かに保つ事。
それが楽園への
近道ではないかと、そして
楽園は自分の心に創るものだと。
やり切れない切ない作品だった
けれど、こういった素晴らしい映画との
出会いがわたしの明日への活力になります。
「呪われた村」の呪いとは何か
打ちのめされた。
ファーストカット、田んぼと町と山の遠景カットを見て思ったのは「あ、うちの実家だ」だった。
Y字路、田んぼ道、ホームセンター、祭り…全部見覚えがある。
美しい木々、田園、川、青く広い空。
ここを鶴瓶が訪れれば、さぞや「のんびりしたあったかい村」に見えるだろう。
でもそこにあるのは、外からじゃ決して見えないどんづまりの人間関係。
事件が起こり、表沙汰になれば「呪われた村」みたいなキャッチコピーがつく。
でもその「呪い」を丁寧に見れば、誰かが誰かを攻撃し、その人が別の誰かを攻撃し、みんなが小さな加害者であり被害者である、という構図が見えてくる。
そしてみんな、自分を加害者だとは夢にも思っていない。
(それを一番分かりやすく体現していたのが柄本明だろう)
まあうちの田舎はさすがにここまでやばくはないな…とも思うけど、でも田舎に帰ると東京では考えられないようなやばいことが平然と起こってしまいそうなダークな空気はいつも感じる。
綾野剛が蕎麦屋で起こしたあの事件とか、今度帰省した時に地元のおばさんの世間話として聞かされてもおかしくない。
佐藤浩市はもちろん、綾野剛、杉咲花、柄本明、黒沢あすか、他みんな素晴らしい熱演だった。もうちょっと話題になってもいい映画だと思う。
しかし佐藤浩市が若者として扱われる限界集落のしんどさよ…あんまりだ…あといぬ…いぬ…!
Y字路が一生の別れ道に
もやもやしました
上映期間
2つの事件、その真相を知っているのは1つのY字路
日本の国と同じムラ社会
ムラ社会に追い詰められる二人の主人公を描いた、ある意味では社会派とも言える作品である。杉咲花が演じるつむぎが所謂狂言回しの役割で、物語を前に進めると同時に、ムラ社会の息苦しさと断ち切り難い絆を伝えている。
つむぎの幼馴染みである、村上虹郎演じた広呂の言葉がこの作品の世界観を端的に言い表している。「誰もが表の顔と裏の顔を持っている」
村人たちは誰も自分のことしか考えていないが、村の利益を優先させる態度で本音を覆い隠す。村は長老たちを頂点とするヒエラルキー社会であり、村の利益とは即ち長老たちの利益である。ある種の利権のようなもので、政治家のサンバンよろしく世襲がらみに受け継がれていく。他所者は決してこの利権構造に食い込むことはできない。
村はひとつの運命共同体であり、出て行った者を許さない。入ってきた他所者に対しては、村に利益を齎すかどうかと、利権に対する脅威とを天秤にかけながら、表面を取り繕って対応する。他所者がヒエラルキーを疎かにしようものなら、徹底的に叩き潰そうとする。ムラ社会にとって外敵は長老たちの求心力を強化させる絶好のチャンスでもあるのだ。
アベ政権と殆どそっくりだと思った方もいるだろう。ロッキード事件やリクルート事件に匹敵するモリカケ問題でも辞任せず、韓国叩きに汲々とする安倍一味とその支持率をみると、日本は国全体がこの映画と同じムラ社会なのだと認識を新たにしてしまう。
綾野剛のたけしと佐藤浩市のぜんじろうは、互いの接点は殆どないが、他所者である点は共通している。ムラ社会の都合によって翻弄され、追い詰められ、脅かされる。
二人とも無口で自分が他所者であることを自覚していて、少しでも村人のために役に立とうとするが、ムラ社会は彼らを少しも評価しない。他所者はどこまでも他所者に過ぎないのだ。
最期はそれぞれに衝撃的な展開だが、ある意味では必然とも言える。他にどうしようもなかったと、納得できるところがある。綾野剛も佐藤浩市も、よくこんな難役を演じ切ったと讃えたい。心にずっしりとくる重厚な作品である。
行き辛いなあと思ってる人は、見て泣いて、それでも生きていきましょう。
「楽園」。吉田修一の「犯罪小説集」から二編が原作、つまり綾野剛の物語と佐藤浩市の物語、二編が編集されて一本になってる、繋ぐのが杉咲花。
これ、「この事件のホントの犯人は誰なんだ?」っていうミステリーとして見ても十分に面白い
でも、たぶん、話のキモはそこじゃあない。たぶん。
主人公三人の境遇が、まあーなんていうか悲惨。でもって、それ以外の出てくる人物が、揃いもそろって微妙にイヤーな奴でさ、いや、なんつうかデフォルトで差別的で男性原理的で、閉鎖された村のなかでこういう環境で暮らしていたら、おかしくなるよなあ、って切実に思う。嫌ーな世界が見事に描かれる。
で、物語は「とんでもないこと」になる。「嫌面白い」とはこのことだ。
吉田修一だから、つまり「悪人」と同じモノだね、これは。なるほど、そういう映画か。ならば分かる。
みんな、苦しいんだ。苦しくても生きてるんだ。
不遇の死の真相がモヤモヤと
本作は事件となる死には、あってはならない事が重なった結果に死に至るという、言わば不遇の死を関連づけて見せる手法だが題名である楽園の地が悲惨な地に変貌する有り様が苦々しく重く描かれている事に、見ていて気分が悪くなった。好きな俳優が凄絶な死を遂げるシーンでの村人の憎悪の姿がとても辛くて吐き気がした。子供の死の真相も、はっきりしないため、観賞後もなんだかモヤモヤした不快感しか残らなかった。これは俳優陣の演技がとても素晴らしいものだったからこその不快感だと思う事にした。楽園とは自己とそれを取り巻く環境が良縁でこそ成立するのだと深く感じましたし、その縁を繋ぐ上での選択次第で良くも悪くもなるのは、どこの誰にでも共通する命題だと投げかけられているようでもある。この作品のように救いようのない立場に追いやられた時に人は、とんでもない選択をするという救いようのなさが、とても怖い映画でした。
学校で問題を解くのが楽しくてしょうがなかった勉強好きには最高な映画
この映画は勉強好きにはたまらない。細かい所までよく出来ている。初見では気づかない事も多かった。本などの文章は確認のために戻ることも出来るが、劇場で観る映画は文章以上に情報量が多いのにも関わらず、戻れない。何度観ても新たな発見があり、飽きずに…いやむしろ咀嚼されたことによりさらに楽しめる。勿論内容は暗く、深い。頭を使い犯人や手法を推理する作品は好きだったが、やはり殺伐としたものを推理することに辟易して最近は避けていた。しかし、この作品は心理描写を繋げていく楽しみなので、相手を理解するという点が心地よい。テーマも単純な田舎の話ではなく、自分が加害被害問わず当事者になりうるところが自身の行動について改めて考えさせられる。
これほど友人と考察することが楽しい作品に出会ったことはない。社会派作品の中でも突出して素晴らしい。
読解力がある人ほど何度も観たくなり、抜け出せなくなる魅力的映画。
限りなく重たい。しかし、観てほしい。
さて、本作、明るさや希望はまったくないと、他のレビューで予想して観に行った。そして、予想通り、たいへん重たい。
春夏秋冬、四季それぞれの美しい景色のカットを丁寧に撮りながら、その間に描かれる村の人間模様は、この上なく醜悪な村八分の世界と、そこから陥る悲劇的な二つの結末。
杉崎さん、村上さんと当代きっての若手実力派俳優に、綾野さん、佐藤さん、柄本さんと揃った日には、俳優的には何でもやれる、もう瀬々監督の腕次第ってなわけですが、この映画のすごいところは、二つの結末自体は、さほど話題にならないだろうと思われること。
そこへ至る過程が、いかに理不尽で、しかし誰もが陥りそうな状況から生まれたことか。さらに、限界集落であればたやすく発生するだろうと思える。さらには、先に述べた景色との対比で、日頃から「田舎の景色は素晴らしい」と言っているこちら側の観客に、「そこに住む、そこを維持することを考えたことがありますか?」と投げかけているような厳しさを感じる。
少なくとも俺は、考えたことがありません。知っていても、うまくいけばいいな、と期待しているだけです。
そんなわけで、たいへん疲れ、それ以上に充実した映画だった。
最後にわずかな光は示されらので、みんなに観る機会があるといいな、と思う。
TOHO川崎で観た。本作とは関係ないが、TOHOは、ブランケット有料にしたんだね。衝撃だった。殿様商売なのか、それとも思っている以上に経営は綱渡りなのか? 映画館が、ずっと続くといいな。
心を引き摺られる
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