劇場公開日 2019年10月18日

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「二つの物語の対比」楽園(2019) shironさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0二つの物語の対比

2019年10月5日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:試写会

ファーストシーンの、美しく揃いすぎている水田から引き込まれました。(俯瞰の空撮から始まる映画が好きなので嬉しい)

てっきりY字路の物語だと思っていたので、途中から善次郎が出てきて、なんだかテーマが分散したイメージでしたが、
エンドロールを見たら、二つの短編の映画化だったのですね。失礼しました。σ^_^;
それを踏まえて見たほうが良いかもしれません。

あえて二つの短編を絡めたことで浮かび上がるのは、閉ざされたコミュニティ。
人々の距離が近くて、皆んなが知り合い。
そんな中で起きた未解決の事件は、誰だか得体の知れない者が村に入り込んだという恐怖で、村人達を疑心暗鬼にしてゆく…
村の顔役達は、面倒見が良くて頼れる存在だが、誰も彼らには逆らえない…
暴走してゆく村人達には集団の狂気を感じますが、
自然豊かな農村に限らず、都会でも学校や職場という閉ざされた社会の中では同じ事が起きているのではないでしょうか?

息苦しさから、若者たちが外へ出て行ってしまうのも分かる気がするし、一度狂った歯車から逃れられずに自滅してしまうよりは、新たな世界で一歩を踏み出す方が良い時もある。

ただ、私も故郷から離れた人間なので、すごく久子のセリフに共感出来るのですが
若い頃は嫌っていた筈の街並みが、気づくと自分の大切な場所になっていたりする。
それだけ歳を取ったという事なのでしょうが、故郷とはまったく厄介な場所です。

綾野剛が難しい役どころを演じきっていて、見応えがありました。

柄本明の村の世話役っぷりがイイ。
揉め事の仲裁も慣れたもんで、普段は何でも任せて安心な親分肌だろうに…
大人気なく紡を責め立てる言葉には、やり場のない怒りと悲しみを感じました。
ご本人には不本意かもしれませんが、根岸季衣さんとの夫婦のシーンが角替和枝さんとダブって、小さな呟きに胸が締めつけられました。

実は今まで、佐藤浩市さんの熱い演技が苦手だったのですが、今回は枯れた感じが相まってとても良かったです(T_T)
体を張った熱い演技に釘付けでした。

『楽園』はどこかにあるものではなく、自分で作るもの。
辛いながらもこれから楽園を作っていく者と、楽園に囚われた者の対比となっていて、この二作の短編をまとめた意味がわかった気がしました。

shiron