「自分の中だけで作り上げられていくストーリー」ラストレター 七星 亜李さんの映画レビュー(感想・評価)
自分の中だけで作り上げられていくストーリー
まさに岩井俊二監督という作品。
出てくる出演者全てが、自分の中で勝手に過去を美化し、今、目の前にある現実に向き合おうとしていない。
唯一、トヨエツ演じる阿藤だけが、貪欲に現実を生きているように思う。。
映画の中では描かれていないが、これは私の勝手な憶測。
大学時代に付き合った乙坂(福山)と未咲は、実際に付き合ってみて、些細なことですれ違う。そこに阿藤が現れ、未咲を乙坂から奪う。阿藤にしてみれば、明らかに自分と比べて全てを持っていて、清らかさと正義の塊のような未咲を手にすることで、何か世の中に復讐したような気持ちになれた。未咲にしてみれば、この人は、自分にしか救うことができないんじゃないかと思い、阿藤に飲み込まれていく気持ちを愛だと思ってしまう。
乙坂は、美咲が本当に自分から去ってしまう(実際は、未咲が阿藤に言った時点で振られているのだが)ことが怖くて、必死で美咲を追いかけない。ただグジグジと思っているだけで、いつか自分の書いた小説を読んで、美咲が自分のもとに戻ってくれるんじゃないかと、ひたすら25年待ち続ける。
これって、もし、阿藤が現れず、乙坂と美咲が付き合って結婚して、それでうまく言っていたのだろうか?
妹の裕里(松たか子)は、「あなたが姉と結婚していたら、姉は幸せになっていたのかも」的なことを言っていたが、本当にそうなっていたのかな。
それぞれが、自分にとって向き合いたくない現実を封印して、自分の中で都合よくストーリーを展開させただけなんじゃないかと。
その自己愛の塊は、結局は自分を苦しめ、家族を巻き込んでいったんじゃないかと思う。
別件として、最近の福山さんの出演作、マチネの終わりにとこのラストレターをみたが、演技の幅を感じられなくて残念。そして父になるの時は、すごくいい演技だったのに。この先、キムタク又は、織田裕二化しないことを祈るばかりです。