劇場公開日 2018年10月26日

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「嘘と悪意の電子の海で 【表題変更】」search サーチ 浮遊きびなごさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5嘘と悪意の電子の海で 【表題変更】

2018年10月28日
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鑑賞方法:映画館

泣ける

怖い

興奮

突如失踪した娘を探す父親が、娘のSNS情報から行方を探ろうと試みるが、
そこで自分の娘が抱える暗い側面や危険な犯罪との関わりを知ることになる……
という物語を、全編PC画面上で展開させた異色のサスペンススリラーが登場。

……「異色」と書いておきながらここでいきなり落とすようなことを書いてしまうが、
全編がPC画面で展開される映画自体は『ブラック・ハッカー』『アンフレンデッド』
等の作品があったし、もっとヒネたことを言うと「SNS上での裏の顔」
といった設定も今日日いろんな作品で扱われているテーマという気もする。

しかし、しかしだ、この映画、とんでもなく面白い!!
「PC画面で展開」という要素を単なるイロモノとして扱わず、
全編サスペンスフルでありながら心に迫るドラマも描き、誰とも容易に
繋がれるネット社会の功罪をも匂わせる、見事なスリラーに仕上がっていた。

……さて、今回ネタバレ無しのつもりだが、レビュアー・カミツレさんの配慮に自分も倣おうと思う。
全くの予備知識無しで観たい方は、これ以降は読み飛ばしていただければと思います。
よろしいでしょうか? いいですね? 続けますよ?



スクリーンに映るのは基本的に主人公デヴィッドが操作するPC画面だが、
テキスト/ビデオチャット会話や、ネット配信映像、監視カメラ映像、
ライブニュース映像といったもので物語を構成・進行。
インスタグラム・twitter・FACEBOOKなどのSNS、Google検索などを
次々に映して調査状況を知らせる。そこまでは別作品でも
用いられた手法だが、本作が頭ひとつ抜きん出ているのは、
例えばチャットで送ろうとした言葉を考え直して消したり、
クリックを躊躇したり、マウスを止めたり、そんな細かい動きが
焦りや怒りや悲しみを伝える表現に活かされている点だ。

冒頭、購入したてのPCで幼い娘と妻と家族写真を撮る流れから涙が出そうになった。
娘の成長を丁寧に丁寧にPCに保存していき、病床の妻との闘病生活を綴る
デヴィッド。彼がどれだけ家族を大切に想っているかがひしひしと伝わってくる。
(同時に、様々なものをデジタル記録できる現代の善良な面でもある)

そういった部分をしっかり描いたからこそ、デヴィッドがどれだけ娘の
マーゴを愛しているか、どれだけ彼女の捜索に必死かに共感できるし、
彼が絶望的な思いをしている場面ではこちらまで泣きたくなってしまう。
マーゴの捜索をライブ映像で流すシーンなど、いつの間にか自分まで
「頼むから死体で発見だなんてやめてくれ」と祈っていたくらいだ。

サスペンスとしても、伏線の張り方と回収も見事なら締めも見事。
娘の投稿写真や細かい発言からか細い糸口をたぐり寄せ、少しずつ真相に
近付いていく様にはスクリーンから目が離せないし、「今、何が起きた?」を
観客に明かさないまま宙ぶらりんにするシーンの巧みさも堪らない。
終盤の展開には「は?はああ?!」と一瞬サッパリ状況が分からなくなるほど混乱。



捜査を難航させるのは、ネット上に溢れる悪意だ。
誰とでも気軽に、リアルタイムで繋がれるようになり、自分の趣味や
思いを共有できることそれ自体は便利だし素晴らしいことだと思う。

だが身元を明かさずに情報(データ)のやり取りができる点は、悪意ある人間にとっても
こんなに便利なものもないわけで、情報の売買や詐欺まがいの広告・取引の他、
本作でも登場するアレやコレなどよくもまあ考えつくと呆れるほど
色々な色々に利用されてしまう。デヴィッドの必死の行為も、逆に言えば
PC上の個人情報はいくらでも掘り出す方法があるということの裏返し。

犯罪目的でなくても、ネット上の悪意は無尽蔵だ。
内に抱えた悲しみを誰かに理解してもらいたいという
気持ちも知らずに、卑猥な言葉や、身勝手な嘘を吐く人々。
家族への愛も絶望的な思いも知らずに、「親の責任」と叩く人々。
顔を見せずに済むというだけで、人はこんなにも身勝手な発言ができるものなのか。
相手をせせら笑う為や苛立ちを解消するためだけに汚い嘘や罵倒の言葉を吐き、
ろくに事情も知らないままの憶測で見ず知らずの人を執拗に叩けるものなのか。

...

それでもネットが廃れないのは、そこにやはり人と人の絆を強め、
自分の人生を豊かにしてくれるものがあるからだと信じたい。
ネットは結局クラゲとサメだらけの危険な海のようなものだが、
家族や気の合う仲間と共に長い航海をするにはとても良い海にも成り得る。

それに、なかなか言えない気持ちを少しだけ気軽に伝えられる場所でもある。
映画の父娘のように、どれだけ大切に想っていても相手のすべては理解できないし、
逆に、大切に想っているからこそ直接口にするのを躊躇ってしまうことだってある。
使い方を誤らなければ、ネットはそんな想いを伝えるきっかけになれるかも。
再び面と向かって笑い合えるきっかけになれるかも。

サスペンスフルでドラマチックでアイデア満載で現代性も十分、
ううむ、うん、ええ、傑作じゃないかしら。4.5判定で!

<2018.10.27鑑賞>

※表題変更:『迷宮』→『海』に変更
 『迷宮』はちょっとクサ過ぎるし
 レビューに合わせて『海』で。

浮遊きびなご
Pegasusさんのコメント
2019年10月30日

search自分も気に入った作品です。
表題は言語センスに溢れています
マウスの動きとかで感情を伝えるのがすげえなぁ!と思わされました。

Pegasus
カミツレさんのコメント
2018年10月28日

コメントへのお返事、ありがとうございます!
お褒めの言葉までいただき、大変恐縮です。
とても丁寧なコメントに感激いたしました。
浮遊きびなごさんの方こそ、作り手と映画への敬意、読み手への配慮が感じられる素晴らしいレビューだと思いますよ。
また別の作品でお会いできるのを楽しみにしています♪

カミツレ
カミツレさんのコメント
2018年10月28日

浮遊きびなごさん、はじめまして。本文中に名前を出していただき、大変光栄です。
実は前から浮遊きびなごさんのレビューがずっと気になっていたのですが、
なかなか観る作品がかぶることがなくて、内心歯がゆい思いをしていました。
私もついついレビューが長文になりがちなので、勝手にシンパシーを覚えています(笑)
今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

さて、レビュー本文の方に話を移しますと、
「例えばチャットで送ろうとした言葉を考え直して消したり、クリックを躊躇したり、マウスを止めたり、そんな細かい動きが 焦りや怒りや悲しみを伝える表現に活かされている」という部分に深く共感しました。
PC画面上での表現だけで、情報だけでなく感情が伝わってくるというのは、本作の画期的な部分だなとあらためて思いました。

カミツレ