「オーストラリアの黒歴史?」ナイチンゲール ミーノさんの映画レビュー(感想・評価)
オーストラリアの黒歴史?
19世紀当時英国の流刑地でもあったオーストラリアタスマニアが舞台で、収監されている囚人の白人、管理している将校達、白人に居住地を奪われ殺し合いを続けている黒人(アボリジニ)が入り混じる。主人公クレアは刑期を終えたにも関わらず中尉に気に入られ兵舎から釈放してもらえないアイルランド人女性。若いが夫と乳飲み子の娘がいる。大尉を目指す中尉は人妻の彼女のことが好きで、歌声を聞いてうっとりと切ない顔を見せたり、少年囚に字を教えてやると言ったり知的な面も持つが、基本的に自分の出世が大事なかなりのエゴイスト。冒頭は、中尉に囲われている彼女とその釈放を懇願する夫と、大尉になるには厳しい山を越えた島の反対側の街ローンセストンに駐屯する大佐に合わなければ無理だと知った中尉やその部下の対決で、ある夜、中尉達が彼女の家を襲ってもみ合った結果、部下達が夫と娘を殺されてしまう。復讐を誓って中尉を追うがローンセストンへ発った後だった。夫と二人で手に入れた一頭の馬に跨って中尉を追うが周囲にせめて黒人の案内人を連れて行けと止められ、大嫌いな黒人ビリーを雇う。そこからは、厳しい自然の中でクレアとビリー、そして中尉達一団の厳しい旅程が交互に描かれる。中尉達もガイドとしてビリーのおじにあたるアボリジニを雇っており厳しい山中では彼が頼りだとわかっていながら差別をし、山中で出会うアボリジニを惨殺、レイプをする。また当初は互いに憎しみ合っているクレアとビリーだったが、ビリーも家族を白人に殺された過去を持つことを知り、徐々に信頼し合っていく。
この映画は激しい暴力シーンで物議を醸したらしいが、タランティーノなどの暴力シーンと全く別で、どんなにひどい暴力でも目を背けず描き切ろうという決意を感じるもの。オーストラリアは近年多様化を積極的に受け入れているデモクラティックなイメージが強いが、50年前は白豪主義だった国で、こういった負の歴史はどの国も持っている。そういう過去を隠さず描き出すことで、過去に向き合って未来を変えることができるのだ。