劇場公開日 2020年3月20日

ナイチンゲール : 映画評論・批評

2020年3月17日更新

2020年3月20日よりヒューマントラストシネマ渋谷ほかにてロードショー

オーストラリアの暗黒の歴史を背景に、暴力という主題を極限まで追求した衝撃作

絵本と育児をモチーフにした独創的なホラー映画「ババドック 暗闇の魔物」で卓越した演出力を披露し、数多くの賞に輝いたオーストラリアのジェニファー・ケント監督の長編第2作である。今回の舞台となるのは19世紀前半、イギリスの植民地化が進むオーストラリア。母国の暗黒の歴史と向き合ったケント監督は、イギリスからの流刑地でもあったこの島に罪人として連れて来られた若く美しいアイルランド人女性クレアを主人公に、壮絶極まりない衝撃作を完成させた。

この映画では、ふたつの暴力が描かれている。ひとつは女性への性的虐待。自らが仕えるイギリス人将校に暴行された揚げ句、夫と赤ん坊の命を奪われたクレアは怒りの復讐を誓う。ふたつめの暴力は民族浄化の大虐殺だ。当時のタスマニアでは、イギリス軍による先住民アボリジニの根絶作戦が繰り広げられていた。しかも野心的なのは、現代にも通じるこれらのテーマだけではない。序盤から正視しがたいバイオレンス描写が相次ぎ、作り手のただならぬ覚悟が伝わってくる。性暴力や戦争がいかに惨たらしく、おぞましい行為であるかを、オブラートにくるまず見せるのだと。

容赦なく吹き荒れる暴力にたじろがざるをえない観客としては、勇ましく銃を握り締めて旅立ったクレアの爽快なリベンジに期待したいところだが、彼女は想像を絶する苦難に見舞われる。タスマニアの鬱蒼としたジャングルはあまりにも険しく、空腹や孤独にも苛まれたクレアはおのれの無力を思い知らされる。さらには死者の幻影にうなされ、復讐の返り血を浴び、身も心もずたずたに傷ついていく描写にまたも息をのむほかはない。

そして本作にはもうひとり、暴力の被害者が登場する。家族や友人をイギリス軍に皆殺しにされ、嫌々ながらクレアの案内役を務めることになったアボリジニの青年ビリーだ。白人とアボリジニの交流劇といえばニコラス・ローグ監督の名作「WALKABOUT 美しき冒険旅行」が思い出されるが、登場人物の年齢設定も状況もまったく異なる本作のクレアとビリーは、種族を超えた絆を育みながらも後戻りできない。しかし、陰惨なクライマックスの先に心震わす瞬間が待っている。題名の「ナイチンゲール」とは、清冽な歌声を持つクレアのあだ名“夜鳴きウグイス”のこと。アボリジニの神秘的な文化をフィーチャーし、どうしようもなく愚かで弱い人間の希望を“歌”に託したこの映画は、血みどろの旅の果てに荘厳な終着点へたどり着くのだ。

高橋諭治

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