ある画家の数奇な運命のレビュー・感想・評価
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「事実は小説より奇なり」を地で行くリヒターの人生
美術の世界に疎く、現代美術の巨匠と評されるゲルハルト・リヒターのこともほとんど知らなかったが、リヒターの叔母がナチスの障害者安楽死政策で命を奪われたこと、妻の父親がナチ高官で安楽死政策の加害者だったことは事実だという。なるほど“数奇な運命”だが、ドナースマルク監督はリヒター本人に取材し映画化権を取りつける際、「映画の中で何が真実で何が創作かを明かさない」との条件をつけられたとか。3時間超の長尺に、ナチスの戦争犯罪とその犠牲者、東西ドイツ分断期の世相、新たな表現を追求する芸術家の生きざまなど多くが詰め込まれたが、“何が真実か”を観客に委ねる本作は、大局的に見るとドナースマルクの映画制作を介したリヒターの芸術表現の一環なのではという妄想さえ抱かせる。
クルト役のトム・シリングと、叔母役のザスキア・ローゼンダールは良かったが、妻エリーを演じた女優がやや魅力不足なのが惜しい。
作者のいない作品
長かった
ずっと心に残る
この映画はゲルハルト・リヒターをモデルにしたとのことだが、私はゲ...
この映画はゲルハルト・リヒターをモデルにしたとのことだが、私はゲルハルト・リヒターという画家を知らなかった。作品も目にしたことがなかった。殆どが事実なのか?
ナチスドイツがユダヤ人だけでなく、精神病や障害者も安楽死や断種手術を強行していた事実は改めて酷い話だと感じてしまう。
断種手術は日本でも行われていて、今年か去年でも実際に強制的に手術させられたと訴えていたニュースは目にしたが、痛ましい過去だ。
クルトは義父が叔母を安楽死に至らしめた事実を知ったのだろうか?そこまではわからなかったのか?それにしても、父親が産婦人科の場合、娘はやはり父親に,診てもらう?父親だからぜったいイヤだろうけど。まあエリーは逆らえなかったんだろうけど。気の毒に。
当時のドイツの様子もわかった。映画館で「サイコ」を上映していたり。1960年製作の映画だから、時代は合ってる〜!
どうやらゲルハルトは再婚しているようで、仲の良かったエリーとどのような結末だったのか、半生ではなくもう少し先もしりたかった。
#49 長いけど全然苦にならない
戦争中のエピソードとか、作品の発想が湧かずに悩む部分とか、時間を省こうと思えば省ける部分が多々あるのにじっくり描いてて、観てても飽きない。
邦画だったらここは要らないと思うような場面も全然飽きずに観てられる。
いつもはボカシがかかる部分も絵画のようだからか、一切ボカシがないのも◎。
というか未だにボカシがある日本の文化は何なんだ?
セバスチャン・コッホ氏が出ているせいか、どこか『善き人のためのソナタ』を彷彿させる。
と思ったら同じ監督なのね。
コッホ氏が出てる映画はどれも好き。
壁が出来る前はあんなに簡単に西側に亡命出来たって始めて知った。
もうキネカ大森でしか上映されてないけど、未見の方は是非。
二本立て一本目。久々のパルシネマ。コロナを感じさせぬ盛況。しかし平...
"Drei Liter!"→Joseph Beuys→ich (3回も言わなくていい)
すっごく良かったです。ドイツの戦中・戦後を辿りながら、天才出現のプロセスに居合わせることができたような想いです。事実と事実でないことをうまくミックスさせた素晴らしい脚本でした。光と影、窓の役割、美しい自然、メチャクチャに爆撃されたドレスデン、木が風に揺れる音、音楽、女性のレトロでモダンな服と全部素敵でした。そして主役のクルトはまさに芸術家の目をしてました。
クルトとエリーが抱き合う姿がとても美しかった。こんなに美しい裸体は、昔見た映画「ライブ・フレッシュ」以来だと思う。本当に美しかった。階段の上の彼女も美しかった。
カッセルのドクメンタといい、ヴェネツィアのビエンナーレといい、ドイツ人がなんでこうも現代アートを意識的に観るのか分かった気がした。イタリアで花開いたルネッサンスも素晴らしい。でもエッジの効いたドイツの現代美術はかっこいいし、分かるとか分からないとかそういうことでなく、ナチスから「頽廃」扱いされた絵画や彫刻の記憶を忘れないようにしているのだと思う。
タランティーノが「イングロリアス・バスターズ」でヒトラーを殺してくれたから、この映画を見ることができました。だから「善き人のためのソナタ」も見ることができるだろうし、見たいと思います。
おまけ:
私の好きな写真があって、金髪の女の子が後ろを向いているカラー写真です。それがリヒターの作品であることを知り、「ベティ」という作品(ベティはリヒターと妻の間の最初の娘)であることを知り、そしてそれは「写真」ではなく、映画でも見ることができたフォトペインティングであることを、今回初めて知りました!写真だとずーっと思っていたのでびっくらこきました!
イッヒ、イッヒ、イッヒ
クルトの叔母エリザベトと後に恋人となるエリーはそんなに似ていたのかな?てっきり同じ女優が演ずるものだと思っていたけど、2人ともすごい(色んな意味で)。義母がケイト・ブランシェット似、エリーがリヴ・タイラーといった雰囲気。
東ドイツの美術学校で学ぶまでの波乱の人生。木の上で悟りを開いたり、叔母が断種手術という不運な人生を歩み、ナチスによる安楽死プログラムの理不尽さを訴えてくる。クルト自身は知らない事実だったが、やがて義父となる元ナチ高官ゼーバント氏がその施策に関わっていたのだ。ユダヤ人政策以外にもこうした事実があったことも忘れてはならない!と、強く訴えてきている前半部分。
後半は社会主義リアリズムの画風を学び、壁画を描くまで才能を発揮するが、父の不遇の死やエリーとともに西ドイツでの現代アートに圧倒される様子が描かれる。そして自分オリジナルの写真模写というジャンルを確立するに至るのだ。
3時間超はさすがにつらい。前半で印象に残ったことが終わる頃には忘れてしまうほど。日本でも旧優生保護法のもとに障碍者の強制不妊手術が行われたことも忘れてはならないが、どことなくドイツの状況と似ている気がした。この政策に毒されたゼーバントはロシア将校の保護によってまたしても危険な発想を娘エリーにも施してしまうのだ。もう、ロシア将校の気持ちさえも踏みにじってる!
スターリンの絵や労働者の団結の姿ばかり描いていた写実主義絵画。このまま自分を押し殺したような画風のままで進んでいいのか?絵画は死んだ?現代アートをやれと言われるも、スランプ続きのクルトの苦悩。安楽死政策については知らされぬまま、自分を表現したスタイルに新たな道を見出すところは本当に幸せかどうかは伝わってこなかったけど、まさに“数奇”という言葉がぴったりの波乱万丈な人生を見せてもらいました。
爆音に曝される爽快感
アドレナリン分泌で運動した直後に似た爽快感、みたいなもんがあると思われ。
良い映画だけど刺さらない土曜日、今日は虫の居所が悪いと見えて。
「子供世代が親世代の戦争の罪を暴く系」じゃ無かった点が良かったところ。西ドイツで芸術家として成功の道を歩み始める件が、感動には程遠かったのが残念なところ。189分が長かった。
ナチス政権下では、ドイツ人民であろうとも粛清の対象になっていた事。ドイツ本土への連合軍による空襲の中には、無差別攻撃(ハンブルク等)があった事。この辺が描かれていたのが良かった。
調べてみたら、ゲルハルト・リヒターのUncle Rudiは1965年の、48 Portraitsが1972年、1024 Coloursが1973年、Emaは1992年。初期はWWⅡの影が色濃ゆく、72年くらいまで引きずってる感じでした。
壁ができる前までは、その気になれば西側へ脱出するのも容易であったと言う描写は、「僕たちは希望と言う名の列車に乗った」でも同じでした。戦後20年ほどは、ナチスに抑圧された反動から、社会主義社会に異を唱える者は少数派だったって事なんかねぇ。それが崩壊を始めるのはソ連の侵攻に対するレジスタンスが活発化した頃。対策がベルリンの壁。
東西分断後、命がけで亡命して来た訳でも無く。芸術家を目指す貧乏画学生としての赤貧感にも乏しく。「自分自身とは何か?」の苦悩も、迫りくる何かがあるでなく。目をそらさないで、って言われても。目をそらしたくなる特別な何かが、彼自身の身に降りかかって来るでもなく。淡々と眺めてしまいました。
マーティン・エデンに続いて、自叙伝2連発で合計315分。疲れた。と言うか、ダレた。内面描写に、もっと時間を使ってもいいんじゃないでしょうか、って思いました。
トム・シリングの魅力がたっぷり。 作品も丁寧に作られていて長時間が...
作品としては傑作、だが…
芸術よ人よ自由であれ
実在の画家をモデルにした話である事も、その画家についても知らず、フィクションとして鑑賞した。
戦時戦後のドイツにおける様々な悲劇と芸術家の苦悩の物語だが、サスペンスやラブロマンス、青春映画のテイストもあり、重すぎず、飽きさせず、3時間の長尺も苦にならない。
ふとしたエピソードや台詞が、後になってしっかり物語に絡み、きちんと回収されていく脚本が巧みで、後味もスッキリ。
歴史事実の描き方も簡潔で解りやすい。恐ろしく、悲しく、けれどやり過ぎな程でもない。
まるで絵画のような構図、光と影のコントラスト等、映像も大変美しい。
強いメッセージ性もありながら、娯楽としても受け入れられ易い、非常にバランスの良い作品。
優性保護法は日本でも施行され、断種の大義名分の元に、障害者や精神病患者の中絶や不妊化手術が行われた。現在でもその不当性を訴える裁判が行われ、時折話題に上がる。近年の大量殺人事件、コロナ禍の世論などに垣間見られるように、弱者や異端者の切り捨てを正当化する思想は、過去の異国のものではない。
これらの、効率や生産性を重んじる思想が落とす影が、様々な形で、繰り返し写し出される。芸術の意義、性、友情、娯楽。実を結ばぬ草は塵芥だろうか。美しいだけの花は何も育まないのか。人が生きる事の喜びとは。
思想に属するな。自由だけが芸術の母体だ、と教授が言う。ナチスドイツ下で、国家民族を鼓舞するものとしてしか許されなかった芸術が、戦後の社会主義下でも、労働奉仕の讃歌としてのみ扱われ、同様の抑圧を受けるというのは興味深い。
そして自由の元では、何をどう表現するのも自己責任。途方に暮れずに我を確立するには、自己に向き合い探求するしかない。本来芸術とは極めてパーソナルなもの。それが、受け手のパーソナルと響き合った時、無作為の数字が意味を持つように、初めて意味あるものになるのかも知れない。無意識のクルトの絵に、追い詰められた医者のように。
幕引き、死したエリザベトの見つけた世界の真実は高らかに鳴り響き、クルトの内に引き継がれ、芸術に乗って、永遠となる。
世界の完成。これぞ、物語を辿る旅路のカタルシスだ。
Unexpectedly interesting
I anticipated to feel sleepy during the film before watching, yet , l was drawn into the story although it’s about three-hour long time work. I wondered why I was on the edge of my seat , it wasn’t an exciting story though. Probably I could often see some beautiful women in spots. I didn’t mean anything bad, it’s artistically beautiful. And I also learned one historical sad fact.
自らのスタイルを確立する瞬間に感動する逸品
モデルとなったゲルハルト・リヒターが現代美術界の巨匠だということを後で知った。全然知らなかった。
序盤、主人公・クルトの少年期に強い影響を与える叔母・エリザベトの魅力に釘づけになる。ナチ党政権下にあって不遇な運命をたどったエリザベトが幼いクルトの記憶に大きな傷を残した。
戦争中に入党を迫られ屈した父は、終戦後、入党を理由に厳しい処遇を受けた。
戦後の東ドイツ、美術学校でのエリーとの出会い。エリーを大切にするクルトに強く共感した。生活を第一に考える彼の生き方は実に真っ当だった。
終盤、西へ行き苦しみながらも自らのスタイルを確立していくプロセスに高揚し、熱くなった。
いや〜、いい作品でした。ドイツの激動の時代と芸術家の半生をクロスする構造が秀逸。厳しさの中で決して失われることがないポジティブな空気も好物でした。
そして何より二人の女性に激しく恋をした❣️
真実はそこにある
語らないことが、強み
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