「薄っぺらい人間たちの深き情念。」女王陛下のお気に入り バッハ。さんの映画レビュー(感想・評価)
薄っぺらい人間たちの深き情念。
ヨルゴス・ランティモスという監督は、一貫して人間は愚かで自己愛が強く下卑た生き物たと捉えているところがある。もちろん人間は愚かなことをしでかす一方で、思わぬ英雄的な行為に身を投じることもあるのだが、ランティモスはそんなことは素知らぬ体で、本作でも身勝手な欲得三昧な女たちの姿を時代物の宮廷劇というジャンルに当てはめる。
なので後味がいい物語にはなりようがなく、なりふり構わぬ女たちの権力闘争に、呆れたり笑ったり戦慄していればいいのだろう。魚眼レンズの長回しやとにかく読みづらいテロップのデザインなど、ちょっと才気が走り過ぎてはいないかと思うところもあるが、実際才気がほとばしっているのだから、存分に好き放題にやってくれ!という気持ちにもなる。
ただしレイチェル・ワイズが演じたサラにだけは、善人ではないが誇りと信念が宿っている。このランティモスらしからぬ人物像は、次なる可能性への布石なのかどうか。このヘンテコな才人からまだまだ目が離せそうにない。
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