劇場公開日 2019年8月16日

  • 予告編を見る

「生きる歓び」ダンスウィズミー keithKHさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0生きる歓び

2019年9月2日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

「生きる歓びです。」これは、フランスの名匠・ジャック・ドゥミー監督が、自作のミュージカルの傑作『ロシュフールの恋人たち』(1966年)のテーマを問われた時に答えた言葉です。

その黎明期に観客が映画に求めたもの、そして日本映画全盛期の1950年代に年間12億の人々が映画館に足繁く通った誘因、それは決して心震える感動や社会の不条理への憤怒のためではなく、心が浮き立って晴々とした気持ちにしてくれ、明日への活力を心の奥底から湧き立たせてくれる「歓び」の時間を得るためであり、これこそ“娯楽の王様”たる映画の原点であって、映画館という非日常空間でドキドキワクワクしながら観る映画の真髄だと思います。
ミュージカルやスラプスティックコメディはその象徴的ジャンルであり、トーキー以降の映画の草創期に多く制作されたのもそれゆえです。

本作は将にその典型であり、小刻みなカット割りによるテンポの良いストーリー展開と、寄せカットやローアングル等の凝った映像ではなく、引いた画面を流麗にパンしていくことで心地良いリズムに満たされた軽快で歯切れ良い画面が作られ、観客は落ち着いて眺めながら、いつしか感情移入してスクリーンにのめり込んでいきます。
現実から遊離しながら現実に立脚した、馬鹿みたいにシンプルで馬鹿みたいに単純明快で軽妙なスジ、これを基に主人公を含め皆がユニークで滑稽なキャラクターが設定され、これに演者たちの切れの良いリズミカルな動きと音楽と優雅にシンクロした集団のダンスが物語を通じて盛り込まれ、映画に求められる三要素である「笑い、泣き、(手に汗)握る」という愉悦の極致に導いてくれます。
明日への希望と意欲を昂揚してくれるという映画の原点を忠実に遵守して、再現してくれた間違いなく快作です。

劇中で流れる音楽はどれも快いノリがあり、馴染みやすく耳に残る旋律とダンサー達の溌溂とした快活な躍動には、つい映像に釣られて体が自然にスイングしてしまいます。それは恰も映画のストーリーの如く、催眠術に罹ってしまったかのようです。

人生は楽しさに満ちているという確信と、そして今日の辛いことを陽気に全て忘れさせてくれ、また明日に向かって頑張ろうという活力を与えてくれました。
観終えた後、泉谷しげるのフォークソング全盛時の名曲「春夏秋冬」の一節を、思わず高らかに歌いたい気分です。
「今日で全てが終わるさ、今日で全てが変わる、今日で全てが報われる、今日で全てが始まるさ!」

keithKH