「山崎ドラマの面目躍如」アルキメデスの大戦 かせさんさんの映画レビュー(感想・評価)
山崎ドラマの面目躍如
原作は『ドラゴン桜』の三田紀房の同名マンガ。
監督は『ゴジラ-1.0』の山崎貴。
【ストーリー】
1933年。
海軍は次期主力戦艦の選定に混乱していた。
航空戦力を主体とした航空母艦を推す永野修身と山本五十六と、大鑑巨砲派の嶋田繁太郎の対立で混迷を極めていたのだ。
平山忠道技術中将の提出した異様に予算の低い超弩級戦艦設計案により、永野たちは劣勢となっていた。
大艦巨砲主義は日本を戦争に向かわせる破滅の道だと、二人が料亭で協議していると、隣の部屋で豪遊していた書生の櫂直(菅田将暉)に出会う。
櫂はのちのノーベル物理学賞受賞者となる湯川秀樹と並び称される、数学の天才であった。
永野と山本は櫂をおし立てて、平山案の瑕疵を見つけだし、超弩級戦艦の廃案をねらう。
後に大和級戦艦と呼ばれた、あのバカでかい回転砲塔に六〇サンチ砲や四五サンチ砲とかいう破格の弾をぶっとばす、長い砲身の三連砲を主砲にした超弩級戦艦。
航空主兵論がわを視点に、その建造阻止を目的とするという冴えたアイデアは、さすがドラゴン桜ほかヒット作を連発する三田紀房ならでは。
山崎作品でもっとも弱いとされてきたドラマパート。
この作品だけは、その弱点がほぼ解消されています。
傑出していたのは、今までになかった抑制の演技。
主演の菅田将暉は、板書する公式すべてを理解しながら解答しつつ説明もできるという、意外な数学脳の持ち主。
すごい。
数字パズルの数独しかやらない自分とは、頭の出来からちがうぜ!
えー、山崎ドラマの弱点に話を戻しますが、やり取りやセリフが類型的すぎること。
そしてそれをただ撮ること。
これをするとリアリティのない部分がただ浮き彫りになるんですね。
それを櫂直という特異なキャラクターで、うまくまわりの役者との芝居を作ったのが、この菅田将暉ではないかと。
自分はただの素人の門外漢なので、演技の良し悪しなんてほぼ分かりませんが、山崎作品の中で、この映画だけは引っかからずに見られました。
原田眞人監督の『日本の一番長い日』の直後に見まして、あちらも良作でしたが、こっちの方がドラマも優れていると感じました。
もう一つ、原田眞人と山崎貴、二人とも日常シーンの撮り方似てますね。
会話の長回しとか、カメラのフィックスを多用するところとか、俯瞰やアオリをあんまり使わないところとか。
微積分を理解しやすく説明し、巧みに物語へと組みこみ、そしてラスト、大和の6分の1サイズのミニチュアの前での圧巻の議論。
冴えたアイデアをうまく切り取って、演者たちとの相乗効果も生んだ、山崎貴作品随一の傑作だと思います。
かせさんさん、コメントありがとうございます。
「ALWAYS 三丁目の夕日」「永遠の0」「ゴジラ-1.0」と併せて、山崎監督の題材を選ぶセンスには感心します。商業的な才覚と拘りを持った映像作りは、もはや日本映画を代表する監督ですね。この映画が主演の菅田将暉の演技で演出が救われているのに賛同します。私の好きな若手俳優で、テレビドラマ「dele」からファンになりました。
撮影のスタイルは一概に言えませんが、役者が良ければ引いて、演技派でなければアップを多用するのが演出の基本です。
そつか、これ、タカシ監督だったんだ。船、撮るの上手いですよね〜。本人が好きなんだろうなあ。
ドラマパートに関するレビューには、全く納得です。
これも監督脚本なのにね。やるな、三田さん(紀房)、菅田さん(将暉)、ありがとう