「黒板俳優」アルキメデスの大戦 odeonzaさんの映画レビュー(感想・評価)
黒板俳優
原作とはキャラもテーマも山崎貴監督流に脚色、込み入った話も大和に絞っています。
内容はまさに映画のキャッチコピー「数学で戦争を止めようとした男の物語」に尽きましょう。
数学が絡んだ映画では「イミテーション・ゲーム」という暗号解読秘話がありましたが専門用語が飛び交う世界観は知的好奇心をくすぐるので興味深いですね。ただ、本作は史実ではないし応用数学も観客のレベルを考慮したのか控えめでした。第一、アルキメデスは小学生でも知っていますが原理は本作では使われません、著名な数学者の象徴として主人公をなぞっているのでしょう。
無理難題をしつらえるとしても海軍内部の予算会議で肝心の費用見積りすら機密にするのでは全く機能不全、史実では対外偽装として架空の駆逐艦3隻、潜水艦などと抱き合わせて公表費用を抑えていたとのこと。映画でも開き直りの抗弁として使われていましたね。
見どころは櫂直を演じた菅田将暉さん、自らを黒板俳優と自嘲していましたがプレゼンシーンは名演でした。ただ、確かに主人公の天才ぶりには舌を巻きますが一週間足らずで船舶工学、設計要領をマスターしてしまうのは強引でしょう。細部にこだわるのも野暮ですが折角の図面を切り分けてどうやって鉄の量をだしたのかも分かりにくいし、時間対処の演出都合にしか見えません。
むしろ怖いのは天才をたらしこむ大人の悪知恵、人たらしと言われた山本五十六の開戦抑止論を飛び越えた平山造船中将の大和かたしろ(身代わり)論でしょうか、田中泯さんの得体のしれない老獪振りは身の毛がよだちます。詭弁であったことは武蔵建造でも明らかですね。
純粋な科学や学問も権力者の口車に乗ったが最後、亡国の道具に成り果てる怖さを感じさせる話題作でした。