「脚本は悪くないが、全体的にはいま一つ」真実 りゃんひささんの映画レビュー(感想・評価)
脚本は悪くないが、全体的にはいま一つ
フランス映画の至宝・レジェンド女優ファビエンヌ(カトリーヌ・ドヌーヴ)、この度、自伝『真実』を出版することになった。
現在、米国で暮らし、脚本家として少なからず名のある娘リュミール(ジュリエット・ビノシュ)が、二流のテレビ俳優である夫ハンク(イーサン・ホーク)と幼い娘を伴って帰郷した・・・
といったところから始まる物語で、ファビエンヌの書いた自伝には、将来を嘱望されていた女優である彼女の姉についてのことはひと言も書かれていなかった・・・と展開する。
つまり、不在の人物を巡っての物語であり、不在の人物がいまいるひとびとにどのように影響を与え、与えられた側がどのように対処対応するかの物語で、映画としては頗る難しい物語。
脚本も書いた是枝監督はこの物語を、カトリーヌ・ドヌーヴの実人生と重ねわせているように思える。
ドヌーヴの姉、25歳で夭折したフランソワーズ・ドルレアックと思いを重ねるような仕組み。
ま、穿った観方をすると、ドヌーヴからのオファーを何としても早く撮りたいと思ったので、そのような物語にしたのかもしれないが。
というのも、劇中映画「母の記憶」(というタイトルだと思うが)には元ネタがあり(エンドクレジットで示される)、それを巧みの利用したのかもしれない。
劇中映画の設定も面白く、不治の病にある母親は幼い娘を残して、(高速(光の速度レベル)で移動する)宇宙空間で治療を受けるが、(高速で移動する)治療施設にいることから、地球上と比べると全く歳を取らない。
そして、何年か毎に、地球に住む娘に会いに行くが、歳を取っていく娘と比べて、母親は不死のように見える・・・というもの。
時を経ねば実際の感情はわからない、とでもいうべき劇中映画のストーリーは、現実世界の母と娘と亡き母の姉という構図を浮かび上がらせるのに役立っている。
が、面白いのはストーリーだけで、出来上がった映画は平凡な出来。
原因はよくわからないが、どうもね・・・と思ったのは以下の点。
ひとつめ、撮影が良くない。
なんだか全体に、のぺぇとした感じで物語の起伏と比べて抑揚に欠ける。
ふたつめ、出演者たちの距離が、これまでの是枝作品と比べて、遠すぎる。
『万引き家族』のポスターを見ればわかるように、是枝作品では出演者それぞれの距離がギュッと凝縮されているシーンがある。
というか多いように思う。
が、今回は、大邸宅の食堂など、登場人物間がスカスカ。
さらに、台詞をしゃべる役者だけをバストアップサイズで撮った画が多く、緊張感を呼ばない。
(唯一、感心したのは、劇中映画のクライマックスシーンのドヌーヴを、相手役の後頭部越しに捉えたカットで、ドヌーヴの迫真の演技を半分隠すことで、その演技を際立たせている)
みっつめは、(これは個人的意見かもしれないが)、ジュリエット・ビノシュがミスキャスト。
幼い娘がいるにしては歳が行き過ぎているし、ドヌーヴの演技を受けるには、あまりに硬質で演技が演技じみている。
個人的には、劇中映画でドヌーヴの若い頃(といっても30代半ばだが)を演じたリュディヴィーヌ・サニエぐらいの方が良かったように思いました。
健闘はしているが、どこか違和感が残る是枝作品、といったところが妥当ではないかしらん。