劇場公開日 2019年6月28日

「白石和彌が描く「家族」とは」凪待ち keさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0白石和彌が描く「家族」とは

2019年6月19日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

泣ける

悲しい

Filmarksの監督ティーチイン付き試写会にて鑑賞。
白石和彌監督が長年あたためてきた「家族」「喪失と再生」がテーマ。これまで加害者側を描くことが多かった監督が、今作では初めて被害者側に視点を移し、どこまでも転がり落ちていく男・郁男(香取慎吾)と血のつながらない「家族」を通して、苦しみから這い上がった先にある一筋の希望を浮かび上がらせる。

ストーリーは、公開されているあらすじでほぼ語られてしまっている。
もちろん「事件」の犯人は明かされていないが、それすら作品内では重要な位置を占めていないと感じる。これは、とにかく郁男の転落っぷりを見せる映画だと言える。

サスペンス風を謳ったキャッチコピー、ポスターは明らかなミスリードで、そうした内容を期待した観客は不完全燃焼になるだろう。
しかしだからこそ、主演の香取の演技が際立ってくる。特に後半は圧巻で、いつのまにか両手を握りしめ、息を詰めて見ていたほど引き込まれた。

白石監督が惚れ込んだその大きな体躯。
多くのヒーローやキャラクターを演じてきた彼の身体が、今作では自暴自棄な暴力装置、悲しみや空虚感を抱えた器として存分に用いられる。
そこに、郁男が香取慎吾じゃなければならない必然を見た。

登場人物は皆何かしらの傷を抱えており、その背後に3.11も透けて見える。監督は彼らの過去をあえて作品内で扱わないが、監督曰く「人間力」豊かな演者たちが、こちらにそれを窺わせる。

優しさも暴力も己の傷を隠しごまかすため、という意味では同じだと思える中、一人真っすぐな瞳で立つ美波(恒松祐里)が、この映画の希望の象徴として光を放っている。

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ke