劇場公開日 2019年6月28日

「目は口ほどに物を言う、多くを語らない破壊と再生の物語」凪待ち 映画野郎officialさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5目は口ほどに物を言う、多くを語らない破壊と再生の物語

2019年6月17日
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鑑賞方法:試写会

悲しい

ここ最近、『彼女がその名を知らない鳥たち』『日本で一番悪い奴ら』と立て続けに観ている白石和彌監督作品。(『孤狼の血』をまだ観ていない僕が言うのもおこがましいが…)白石監督の作風がつかめないでいたが、毎回どうしようもないダメ男を通して、その内にある優しさや強さ、人間味を描く天才だと感じた。

ただ、この映画は期待しすぎていたためか少しもの足りなかった。というのも、どこか物静かでスクリーンから迫るものが感じにくかった。でもそれは自分の感受性にも問題がある。

今回試写会で上映後監督のティーチインが行われたが、そこで白石監督は「最近は、過去に何があったかで語る映画が多い。だから、いまそこに何があるかで描く作品を創りたかった。刺激的な映像やセリフではなく、芝居や表情で伝わるものを大切にしたかった」というようなことを話していた。まさに、目は口ほどに物を言う。
その多くを語らない映画から何を感じとるか、それがこの作品の楽しみ方ではないだろうか。

また堕落した男が周りの優しさに触れ再生していく姿と、津波で破壊されたまちが復興していく社会をリンクさせているが、そのナイーブな震災というテーマも厚かましくなく、さらりと溶け込ませる。
ただこれを観ると、誰もがまだ皆が思っている以上に傷跡が残り元通りになっていない被災地の現状に想いを馳せるだろう。

一番刺さった言葉は、「津波ですべてダメになったんじゃない。津波が新しい海を作ってくれた」。人間が及ばない自然の包容力、そして過ちを犯した人にもより強く変わってやり直すことができることを物語っている。

ただ本作は、香取慎吾キャスティングありきの作品で、震災は後付けで重ね合わせたということを聞いて、ちょっと業界のリアルを見たようで残念だった。

個人的には、恒松祐里の目力と、吉澤健の佇まいが好きだった。
そして白石監督は、役者の能力というより、本人がどう役を超えていくかを楽しむ演出手法のようだ。

震災で壊れたまちと、ギャンブルで壊れた男の、凪待ちのものがたり。

もの語りたがり屋