斬、のレビュー・感想・評価
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塚本晋也がかっこよすぎる
幕末の動乱の時代の農村を舞台にした時代劇というのは珍しいが、作品全体の根底にある価値観も時代劇としては相当珍しい。人を斬るのが仕事の侍が斬ることに疑問を持っている。都ではしゅうちゅう流血沙汰であったことを考えればさらに異質だ。現代的な価値観では正しい問いであると言えるが、幕末にもそういう価値観があっただろうか。農村が舞台であるという点がそこはポイントになるかもしれない。 江戸時代はなんだかんだと300年大きな戦もなく泰平の世が続いた。時代のうねりを感じにくい農村でそのような考えも生まれるのかもしれない。 侍姿の塚本晋也がとにかくカッコいい。ぎっくり腰で満足に殺陣ができなかったらしいが全くそうは思えない。スコセッシ映画などにも出演して、近年役者として凄みが増しているように思う。
斬、へと昇る天道虫
幕末とは「人を斬ったことがない」侍がほとんどだった時代である。腰に下げた得物は「概念」だけが残り、「実用」を失って久しい。
杢之進もそんな「人を斬ったことがない」侍。
そして幕末はそんな日常が崩壊する予感に満ちた時代でもある。新しい世界との交わり方を、意思決定しなくてはならなくなった。ことによっては「人を斬る」必要に迫られるかもしれない、そんな時代。
「太平の時代が続いてましたからね」
杢之進の台詞には、変化は確実に迫っているという彼自身の葛藤が含まれている。
考えてみれば当たり前の話だが、侍に生まれたからと言って「人を斬りたい」訳ではない。日本に生まれたら無条件で米が好きか、と言えばそんな事はないのと同じだ。選択肢があるなら、パンが良い、麺が好き、と好みは分かれる。
人を傷つけるより、畑を耕す方が自分にはあっている。そう感じる侍だっていたはずだ。
少し前なら、薄々そう思いつつ剣の稽古をこなしながら生きていけた。ついぞ使うことのなかった刀を床の間に置いて、安らかな生を全うした侍だっていただろう。
杢之進は多分そんなタイプなのだと思う。
杢之進だって、闘うこと自体は好きだ。腕もある。農民の市助に稽古をつける杢之進は、容赦なく市助を攻め立てるし、暴力を恐れる一方でどうしようもなく暴力に惹かれている面もある。
でもそれは安全圏の暴力だ。合意の上で、命を落とすことなく終わらせられる暴力だ。
「人を斬ったことがない」「人を斬らなきゃならないかもしれない」「人を斬りたくない」そんな杢之進の葛藤は、初めて真剣を持った日から続いていた。竹刀や木刀で闘うのとは違う。どちらかが命を落とす戦い。
澤村が来たことで、杢之進は暴力の最終形である「人を斬る」ことから逃げられなくなったのである。
常に「人を斬る」事を考え続けていた杢之進は、柄の悪い浪人軍団との悶着について「もう止めてください」と訴える。
誰かを斬れば報復が待っている。始まってしまえば、こちらもあちらも何人も死ぬことになる。
人を斬れば、斬られる。どこかで止めなければ、という杢之進に対して、弟を殺されたゆうは「いざというとき刀を抜かないで、一体いつ役に立つんだ!」と言い放つ。
農家の娘であるゆうにとって、命のやり取りは他人事だ。自分が斬られる事も、誰かの命を摘む事も人生の中にはない。考えた事もない。
激昂したゆうに突きつけられた言葉は、杢之進自身が一番悩んでいた事だ。
侍に生まれ、いざというとき刀を抜かなかったら、自分は何のために生きているのだろう?
ゆうの家族の報復のため、澤村と浪人たちのアジトに乗り込んだ時も、杢之進は真剣を手にしなかった。歯に刀を突き立てられても、ゆうが犯される様を目の当たりにしても、ついに刀を手にしないままだった。
人を斬るという罪深さを受け入れる覚悟は、この時の杢之進にはまだなかったのである。
それでも杢之進に固執する澤村は、朝一番に江戸へ立つ事を告げる。
「来ないなら、お前を斬る」とまで言われて、杢之進は山へと消える。
杢之進は逃げたかったのか?そうかもしれないが、それだけではない。
市助とゆうと見つけた天道虫を見ていた時に、杢之進が語った言葉の通り行動したのだ。
「七星は上へ上へと昇って行くんです。昇って行って、昇る所がなくなると天へ飛び立つ」
杢之進は天道虫のように、「人を斬る」世界への道を昇る。山を登る。「人を斬りたくない」「人を斬れるようになりたい」その狭間で葛藤し、悶えながら、昇れるところが無くなるまで、山を登り続ける。
このまま杢之進と澤村が昇り続ければ、杢之進は天へ飛び立ってしまう。その先は死か、人を斬る存在か。どちらにしろ、ゆうが慕った杢之進はいなくなる。それを感じてゆうは叫ぶ。
「止めてください。もう、止めてください!」それは杢之進と同じ願いだ。どこかで止めなければ、誰もいなくなるまで止まらない。
杢之進と澤村の果たし合いは、杢之進の横薙ぎの一振りで決着した。題字の「斬、」その横に長い一画は、杢之進が初めて人を「斬った」姿だ。
「斬」という存在になった杢之進は、もう画面に映らない。
慕った存在を失ったゆうの嘆きの叫び声だけが、天道虫が飛び立った後の山に響く。
暴力へのどうしようもない憧れと、暴力への本能的な畏れ。暴力に魅了され、暴力を否定し、その相反する感情を映画に叩きつける、塚本晋也という存在がそのまま映画になったかのような、塚本晋也らしい美しさ。
いや~、最高でしたね!
今更だけど塚本晋也監督は出しゃばり過ぎ
映画館では2018年12月3日フォーラム仙台にて鑑賞 それ以来2度目の鑑賞 蒼井優池松壮亮共演というだけで迷うことなく映画館で観ることを決めた 80分 時は幕末 場所はド田舎 農村で農作業の手伝いをしている人を斬れない浪人都築杢之進役に池松壮亮 村人の娘ゆう役でお色気担当に蒼井優 仲間を求めスカウトにやってきた剣の達人・澤村役に塚本晋也 もちろん蒼井優も池松壮亮も素晴らしい 期待通り カメラのブレは臨場感を出すためだろう それはまあいいさ 問題はいつものように役者も兼ねている塚本晋也 たしかに悪くはない むしろ良い方だ 悪くはないがでしゃばり過ぎだ あんたが出る必要はない 村西とおるじゃあるまいし 澤村次郎左衛門役にはそれなりのベテラン俳優を抜擢するべきだった 北野武やクリント・イーストウッドなどとは事情が違う 塚本晋也監督の自主映画スタイルが頑固なまでにそうさせるんだろうか ぼくは好きじゃない 好きじゃないがチャンバラ映画は大好き しかも蒼井優と池松壮亮の芝居を堪能できる 星3つ
残念
役者人の演技は素晴らしいが、ストーリーがめちゃくちゃ。 武士の話なのに人が斬れない? るろうに剣心の方が何倍も面白い。 あと、「人を斬れるようになりたい」とか、繰り返しのセリフが多すぎてウンザリ。期待していただけに残念すぎる。
刀の音
時代劇にして塚本晋也の特色と変態性は発揮され、演じる池松壮亮や蒼井優に塚本イズムを押し付ける役者冥利と、塚本作品のもはや常連でもある中村達也の悪役全開にワンシーンで掻っ攫う存在感。 リアルに響き渡る刀の斬音?は"鉄男"から継承されたようなメタリックな鉄のゾッとする感覚、それよりも握りしめた時の軋むミシミシ、ミリミリって濁点が付く音が何よりもリアルで恐怖心を煽られる。 蒼井優を見る度に"山ちゃん"って現実を受け入れられない、信じられない!??
やっぱり、斬ってしまうのか🙇♂️
強そうだけど、 百姓の少年とチャンバラする侍 ここぞ、と言う時にでも、 棒切れで敵と闘う斬れない侍 そんな侍が戦に行くつもりだが、 刀が抜けない侍が戦で何をする。 そんな侍が、斬れない侍が逃走し、 刀を抜かすため逃げる侍に、 上司が追いかけて闘う羽目となり、 どうする。 どうなる。 そんなことに悩むより、 人斬り包丁など持たぬことだ。 そして、 どうするか、 どう生きるか、 武士道と言う人殺し作法などあってはならない。
現実逃避
志ばかり大きく 頭でっかち 目の前の喜びや美しさに気づくことなく 蜃気楼の美しさに胸焦がす 現代人にも置き換えられる 今、目の前にある喜びに 心安らぐ強さが欲しい そう思いました とても味わい深いお話 でも、、、 面白ければもっとよかったのに、、、 そうとも、思いました
命を奪う斬の本質
個人評価:3.6 塚本晋也の鬼気迫る演技。まさしく人の命を断てるサムライの眼光。立ち姿、所作も堂に入っている。 グロ表現も他作と違い抑え目で、刀の美しさや、人の命を奪う斬という意味の本質に迫っているとも感じる。
塚本晋也に頭が下がる、ただ作品はつまらない
前作野火は常盤貴子が自分の主演映画の舞台挨拶で野火を是非観にいってくださいと言ってしまうくらいの名作でしたが、本作は正直わるくないが人には勧められない。塚本フリークスにはある種独特の空気感が心地いいだろうが一般人に勧めにくいのが塚本作品。 低予算手弁当で映画をつくる塚本組には頭が下がります。それに賛同し素晴らしい芝居をした池松壮亮、蒼井優にも拍手。また毎回自ら出演し見事な殺陣を披露した塚本晋也監督兼俳優にも拍手。 しかし時代劇なのに現代語の台詞やら、ストーリーも決して斬新なものではない。次作に期待します。
「、」の後はどう続く?
Amazon Prime Videoで鑑賞(レンタル)。
究極の投げ掛け映画でした。
タイトルからして、「、」がついているし…
その後には、何が続くのだろうか???
剣術の鍛練を積んでも、人は斬れない。剣を抜いても、大切な人を守れない。ではいったい、「剣」とはなんなのか?
人を殺すための兵器?
己を導くための道具?
人を斬ったとして、その先に待っているものとは…?
つまり、圧倒的な力の使い方を問う物語だったのかしら?
う~む、分からん!
※修正(2022/09/28)
わからんもんはわからん
色々と意味を読み取りたいし、塚本監督作品はきらじゃないんだけど、本作が面白いとは思わんかった。 セリフとかめちゃくちゃ少ないし、いきなり発狂したり。 悩みに共感できないから、重厚に演出されても、、知らねーって感じでした。 蒼井優がうるさいし池松さんはまんま池松さんだし。なんか苦悩して狂ったりされるのめっちゃ嫌いなんだな自分って初めて認識しました。 野火とか大好きな映画でしたよ。ほんとに。
監督頑張り過ぎでしょ
俳優陣の演技はいいんだけど、ストーリーが微妙。人を斬れない浪人の苦悩ってのはなんとなく感じれたけど、主人公の情報が無さすぎていまいち共感もできない。るろ剣みたいに過去の出来事から不殺の信念を貫いてるならともかく、この主人公は良く言えば平凡?山賊と酒飲めるくらいの胆力はあるけど侍としてはビビりかな。侍としての技は優れていても人としては平凡。初めから人を斬れる人はそうそういないと思うし、その平凡さが共感を呼ぶのかもしれないかな。 ラストの山中での追跡劇はもっと短くて良かったと思う。ダラダラ長過ぎ。 殺陣にしても一、二撃で決着じゃなくてもっと頑張って欲しかった。 見た感じ低予算な感じだけど、監督自ら出演して、しかも殺陣もきっちり仕上げて、頑張り過ぎだわ。
斬、新!
新しいタイプの時代劇だろうか。塚本晋也演じる浪人が一気に殺さず、地獄に行くまでの間に今までの己を思い返してください、と言い放つ。普通の時代劇だと斬られてすぐ倒れるけれど、実際は斬られても刺されてもしばらくは苦しみますよね。生々しいけど新鮮に感じた。 蒼井優はやっぱり凄い。どんな役でも出来てしまう。塚本晋也も渋くて良かった〜。個人的に昔の塚本晋也はあまり好きでなかったけど、年々渋さが増して魅力的になっていく。これからどんな映画を撮ってくれるのか楽しみ❗️
葛藤
この時代で人を斬り捨てるのは到って普通。斬れなきゃ死ぬだけ。斬って斬って斬りまくり挙げ句には誰かに斬られるでしょう。斬り合いの緊迫感は伝わったが、この作品が何を言いたいかいまいち解らない。 日本刀は武器の中で一番美しい。
人を斬ることのできない侍
幕末の農村に人を斬ることが出来ない侍(池松壮亮)がいた。 村の娘(蒼井優)とは相思相愛で、剣の腕はなかなかのものらしい。 そこへ現れたのは平気で人を斬る剣の達人(塚本晋也)、そして野盗の集団だった。 皮肉なことに斬り合いたくない主人公のせいで斬り合いが始まる。 武器は抑止力か?
『野火』が「今、脂ぎったおっさんらがやろうとしているのはこういう事...
『野火』が「今、脂ぎったおっさんらがやろうとしているのはこういう事だよ」という映画だったのに対し、その愚かな動きにストレートに抗えないこの国の苦悩を描いてるんじゃないかと思った。あと、単純に塚本版殺陣アクション映画として、非常に面白かったです。
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