「息子たちは立ち上がる」クリード 炎の宿敵 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
息子たちは立ち上がる
アポロ・クリードの息子、アドニスを主人公にした『ロッキー』の新シリーズ『クリード』。
ロッキーがかつてのライバルの息子を鍛えるという激アツの展開で、個人的にその年のBEST級の一本に。
『ブラックパンサー』を大当たりさせたライアン・クーグラー監督とマイケル・B・ジョーダンの飛躍作で、何よりシルヴェスター・スタローンの名演! オスカーを獲って欲しかったと今でも思っている。
そんな訳でこの続編にも大いに期待しており、その期待は今回も存分に満たされた。
前作で現チャンプに敗れはしたものの、一歩も退かぬ闘志と名試合を見せ、誰もが認める“クリード”となったアドニス。
その後も快進撃を続け、遂に名実と共にチャンプに。
恋人ビアンカにプロポーズし、彼女は妊娠も。全てが絶頂。
そんなアドニスに挑戦状を叩き付けてきた者が居た。
それは…
ヴィクター・ドラゴ。
かつてロッキーが苦戦しながらも勝利した、旧ソ連が生んだ最強ボクサー、イワン・ドラゴの息子。
父イワンに徹底的に鍛えられた、父親譲りのパワー・ボクサー。
父を知らぬアドニスだが、“ドラゴ”という名は彼にとっても忌まわしい名。何故なら…
父アポロの命をリング上で奪ったのが、イワン。
父の仇。
何かの因果か数奇な宿命か、仇の息子と拳を合わせる事に。
アドニスが父の仇の息子と闘う。
本作もまた激アツ展開!
イワン役は勿論、ドルフ・ラングレン。
序盤、約30年ぶりにロッキーとイワンとして、スタローンとラングレンが顔を合わせるシーンは鳥肌モノ!
本作は『クリード』の続編であり、『ロッキー4』の続編でもある。
挑戦を受けるアドニス。
が、ロッキーは…。
両者の気持ちは分かる。
父の仇を討ちたい。挑戦に黙っていられない。
ライバルで盟友は自分の腕の中で死んだ。もし、彼の息子もそうなったら…。
初めての決別。
アドニスは一人で挑む。
復讐対復讐。
その結果は…
ヴィクターの反則により、アドニスの判定勝ち。
でも実際は…
ドラゴ親子はどんな手段を取ってでも、復讐を果たすのが目的だったのであろう。
そういう意味では、ドラゴ親子の完全なる勝利。
アドニスは命を奪われなかったものの、滅多打ちにされ、肋骨も折られ、満身創痍。再起も危ぶまれるほど。
アドニスはただヴィクターに負けたのではない。
挑発に乗り、自制心を失った己の復讐心と暴走に負けたのだ。
完全なる敗北。
リベンジの筈がリベンジの餌食にさせられてしまった…。
その後リングから遠ざかり、チャンプの地位も危ういアドニス。
しかしこれぞ、このボクシング名作映画の醍醐味というもの。
ロッキーと和解。
娘も産まれ、大切で守らなければならない存在が出来た。
チャンプとして、父親として、そして“クリード”として…。
自分は何の為に闘うのか。
苦悩・葛藤・模索の末、アドニスは再びリングの上に立ち上がる…!
話的にはストレート・パンチだが、熱く、感動的なドラマと迫真のファイトで、KOパンチ級。
監督に抜擢された新鋭スティーヴン・ケイプルJr.は、ライアン・クーグラーにも劣らない名試合を見せた。
マイケル・B・ジョーダンの熱演はますます頼もしく、ブレイクしたテッサ・トンプソンもアドニスや作品を支える。
スタローンは引き続き名演を見せ、彼だけではなく、ドルフ・ラングレンまでも渋い演技を見せてくれるとは…!
ヴィクター役のフロリアン・ムンテアヌはちと堅いが、それがかえって彼が背負ったものを滲み表した。
さらに、ブリジット・ニールセンも顔を見せ、シリーズのファンをニヤリとさせる。
(ジョーダン、トンプソン、スタローンは奇しくもMCUキャストに。ラングレンだけDCだが…)
宿命のリターン・マッチ。
実はクライマックスの試合、見てて複雑な心境だった。
と言うのも、どちらにも負けて欲しくなかったからだ。
映画的にはアドニスが今度は勝ち、見事リベンジを果たして欲しい。(実際、そうなったが)
一見憎々しい敵役のドラゴ親子だが、彼らにだって闘うドラマがある。
父イワンはロッキーに敗れた事で、国家の威信を傷付けたとして見捨てられ、どん底に。
息子ヴィクターに全てを叩き込み、託し、息子はその期待に応え、かつての雪辱を果たした。
ドラゴ親子もまた立ち上がったのだ。
しかし、クライマックスの試合で負けてしまったら…。
またこの親子をどん底に叩き落とさなければならないのか…?
それはあまりにも酷過ぎる。
おそらくヴィクターは、父の復讐の為だけに育てられたようなものだ。
アドニスもそれを背負って闘っているが、自分の意志で決めたアドニスとは違う。
そう思いを馳せると、ヴィクターの生い立ちは悲しい。
前作ではちと物足りなかったライバル側のドラマが、本作ではしっかり描かれている。
どちらにも負けて欲しくない。
だけど、絶対負けられない。
だからこそクライマックスの闘いは、こんなにも目頭と胸を熱くさせられるのだ。
父の名を背負い、立ち上がった二人の息子の姿に、私は惜しみない拍手を贈りたい。
アポロとアドニス。
イワンとヴィクター。
ロッキーとロバート。
血の繋がりは無いが、ロッキーとアドニスもそう。
本作は受け継がれていく父子のドラマ。
エンディングも本当に感動的だった。
宿命の対決も終え、本作で有終の美を飾ってもいい。
しかし、彼らはまた立ち上がり、闘い続けるだろう。
次の試合にも期待してしまう!
正直反則でアドニスを無敗にさせなくとも、普通にノックアウト負けでいいんじゃ?と思いました。
ロッキーのモデルになったロッキー・マルシアノじゃあるまいし、あんまり主人公のキャリアのイノセントにこだわる必要もないしなあと。