劇場公開日 2019年4月19日

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「誰の中にもある歪んだ愛の形のデフォルメ」愛がなんだ TSさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0誰の中にもある歪んだ愛の形のデフォルメ

2024年5月5日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

難しい

「愛なのに」を観た後、そういえば「愛がなんだ」を観ていなかったと思い、今泉脚本作品を2本立てで観た。原作未読。

正直、前半はイライラして途中で観るのをやめようかと思った。しかし、岸井ゆきのが脱力感たっぷりなのに不思議と引きつける演技をするものだから、ダラダラ見続けているうちに、中盤から俄然見入ってしまった。

テルコ(岸井ゆきの)の守(成田凌)への一方通行の恋愛感情は、自分の生活を犠牲にしてまでも尽くすという究極の都合のいい女ぶり。一方の守からすれば、呼べばいつでも来る便利な女。それで自分の気が済んだら用はない、頼みもしない余計なことをして欲しくないという究極のダメ男(しかも本人に悪気なし)。
同じ構図が男女逆転して仲原(若葉竜也)と葉子(深川麻衣)の間にも。

アラサーでなにやっているんだ!と、テルコを筆頭に、このどうしようもない4人全員にイライラしていたが、すみれ(江口のりこ)が登場し、守もすみれに対して一方通行の恋愛感情を抱いていることがわかってから、考えさせられる展開に。

仲原が葉子ともう会わないとテルコに告白する重要な場面。自分を見てくれないことがわかっていても、好きすぎる故にどんな形でも側にいたいという気持ちでいたが、それが苦しかったと。そりゃ苦しいですよ。ダイレクトに「あんたじゃない」という気持ちが伝わるんだから。しかし、こういう気持ち、誰しも少なからず抱いたことがあるんじゃないか(超モテ男、モテ女の方を除いて)。この場面で、ああ、なんかちょっとわかるなあ、という気持ちになってしまった。

そうすると不思議なもので、ちょっとヤバいテルコも言動もなんかわかるなあ、という気に。守のすみれへの気持ちもなんかわかるなあ、という気に。
逆に、相手の好意に甘える守や葉子と似たようなことを少なからず自分もしたことがないか?と胸に手を当ててみたり。

詰まるところ、これは1人の女性の執着愛を描いた物語ではなく、若かりし頃、誰しもが少なからず抱いたことがあるような感情や、やってしまいそうな行動を、強烈にデフォルメして濃縮して登場人物達に演じさせているんじゃないか、という解釈に自分は至った。

テルコの「愛がなんだよ!」という心の叫びは、「愛でも執着でも何でも好きに呼べばいい。どんなことをしたって私は守を見ていたい、何なら守になりたい!ただそれだけだ。」という彼女の宣言であり、吹っ切れた瞬間。そこまで宣言するならとことんやってみなよ、と応援しそうになった(いや、応援はせんけど。幸せにはなれないから)。

しかし、守の気を引くために好きでもない男を見つめ、それを見つめる守を横でチラ見するすみれの構図は秀逸。
そしてラストカットは、下手すると狂気(サイコ)に見えそうな場面だが、それをほんわかした印象にしてしまう岸井ゆきのと今泉監督って・・・一体・・・。

考えさせられるけれど、後味のさっぱりした不思議な映画だった。

TS
CBさんのコメント
2024年5月5日

うわ、うらやましいばかりの二本立て!!

CB