「ルーティーンのような単調な構成がドラマ性を奪う」ビューティフル・ボーイ 天秤座ルネッサンスさんの映画レビュー(感想・評価)
ルーティーンのような単調な構成がドラマ性を奪う
ギリシャ彫刻のように端正なティモシー・シャラメの出演映画で「ビューティフル・ボーイ」と言われれば、麗しい美少年の物語かと思ってしまいそうだけれど、このタイトルはジョン・レノンの「ビューティフル・ボーイ」が元。父が愛するわが子を歌った愛の歌だ。映画も「ドラッグ依存」というテーマを持ちつつも、より強く描かれたのはその題の通り父子の愛ないし父から息子への愛なのだなと感じた。
そのためか、いかにしてドラッグを絶ったかや、ドラッグといかに闘ったか、あるいは家族が彼とどう向き合ったかという点においては、実は非常に曖昧だと感じた。逆にそこを下手に詳細に描きすぎると「ドラッグ依存者更生プログラムビデオ」みたいなことにもなりかねないので、ある意味では安堵する一方、ドラッグ依存となった息子とその家族の葛藤や闘いが、この映画で十分描かれたか?というと不十分な感は否めず、では父と息子の愛の物語や家族の愛の物語としてはどうかと考えても、そこにはやっぱり物足りなさが残った。
エンディングの最後に、ドラッグに関するメッセージ性のある文章が表示され「ふむふむなるほど」と思った直後にふと気づいた。本来はそこに書かれたメッセージを作品に組み込み、この作品を観た人が自ずとそのメッセージに気づかされる、そんな映画にするべきだったのではないか。内容に物足りなさがあったため、最後のメッセージも取ってつけたように感じられてしまった。
映画の構成としても、依存→更生→再発→少年時代の回想・・・という繰り返しが崩れることなくループされるので、展開がどんどん単調になっていくのを感じた。結局最後の最後までその構成が宛らルーティーンの如く乱れることがなく、物語としては大変な出来事が数々起きているはずなのに、そこに映画的な起伏や躍動が感じにくい映画だったなというのが正直な感想だった。
演者はスティーヴ・カレルはじめ、だれもが本当に素晴らしくて役者でだいぶ内容がカヴァーされていたようにも思えたのだけれど、それにしても相変わらずティモシー・シャラメの持つあの妖しさというか色気は何なんでしょうね。演技の良さに加えて観ている人を惑わせるような存在感。ただ美しいだけじゃない悩ましさがあって映画の最中ずっと釘付けだった。彼に免じて☆0.5追加してます。