「自分のできないことは人に頼れる社会の実現」こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話 Naguyさんの映画レビュー(感想・評価)
自分のできないことは人に頼れる社会の実現
原作からそのまま引用されたタイトルが意味深だがコメディではなく、渡辺一史のノンフィクションを原作とした実話映画。
筋ジストロフィーで余命は20歳までと宣告されながら、病院や家族から独立する決心をした故・鹿野靖明氏の独特の生き様を描いている。
ヒトをバカにしたようなワガママ放題の主人公の鹿野を大泉洋が演じ、生活を共にする看護ボランティアとともに、信念を貫いて闘う姿に、健常者ほど、"何が大切か"を考えさせられる。
"人間らしく生きることは、すべての人に平等である"ことは理解できる。ならば、身体がまったく動かない身障者は何をすればいいのか?
鹿野は意外な答えを持つ。"出来ないことは堂々と求めればいい。"
いまや当たり前の言葉になった"バリアフリー"。そんな言葉のなかった時代に、"自分のできないことは人に頼れる社会"の実現を願った、鹿野の主張はとてつもなく先進性がある。
"主張をしなければ、なにも与えられない"
鹿野に影響を与えた、米国人エド・ロングの言葉である(鹿野と同じ、筋ジストロフィー患者)。
例えば、多くの駅に設置されるエレベーターは、高齢者やベビーカーの乗客も普通に使っている。一見、すべての立場の弱い人に優しい配慮に見えるが、それは身障者たちの声が成し遂げた結果だ。
映画のなかで、鹿野が車イスに人工呼吸器をつけて退院する姿がある。実はこれにも先達がいる。
今年公開された「ブレス しあわせの呼吸」(原題:Breathe)のロビン・カベンディッシュだ。ポリオの感染で、首から下が麻痺して人工呼吸器が必要になったロビンは、当時、不可能と言われた自宅療養を家族とともに勝ち取り、車イスに人工呼吸器を携帯して旅行まで成し遂げた。何事にもパイオニアがいる。
健常者が、仕事による経済活動や芸術による成果で評価するのは簡単だが、世の中への貢献は、それだけではないはず・・・本当の対等とは何か。鹿野の目線はずっと先のゴールを見ていた。
本作のみならず、大泉洋の演技はもっと評価されてしかるべきだろう。本作が自然に観られるのは主要キャストの演技力に支えられている。首から上だけの演技は、口がうまいだけでは済まされない。
結婚・離婚も経験している恋多き鹿野靖明が好意を抱いた、介護ボランティアを演じるのは高畑充希。意図的な"どアップ"と"ナマ足"だらけで可愛さ全開。
(2018/12/28/TOHOシネマズ上野/ビスタ)