「ズーラが求めた社会派とロマンスのバランス」COLD WAR あの歌、2つの心 つとみさんの映画レビュー(感想・評価)
ズーラが求めた社会派とロマンスのバランス
物語の始まりは1949年。両端が詰まった画面サイズとモノクロの映像が時代感を醸し出すのにとても効果的だと感じた。
雰囲気がいい。雰囲気がある。まあそんな感じだろうか。
第二次世界大戦のあと、ポーランドはソビエトの衛生国として生きる道を模索していた。ソビエトのやり方を真似てソビエトのようになろうとしていたわけだ。
序盤の、次第にソビエトに染まっていく様はとても面白かった。その裏で「未来」の文字が落ちていくシーンは実に皮肉がきいて混迷していくポーランドを象徴しているようだった。
民族衣装と民族歌謡を披露する歌劇団がソビエト色に染まり、自分が監視されていると知ったヴィクちゃんはフランスに亡命することになる。
そこでは西側の音楽とパリのやり方に染まっていき、それはズーラの歌うポーランドの歌にまで及ぶ。
ソビエトに蹂躙されたポーランドの歌は、次はそれを訝っていたヴィクちゃんも加担する形で西側に蹂躙される。
赤く染まった歌が青く染まる。ポーランドの色は?ポーランドをポーランドのまま残すことは出来ないのか?エンディングのセリフの「向こう側」の意味するところは何だろうか。常に他国に蹂躙され続けていたポーランドの悲痛な叫びのような気がする。
と、ここまでは社会派な部分で、これにズーラとヴィクちゃんのロマンスが乗っかってくる。
ズーラはヴィクちゃんに対し対等ではないから共に逃げられないと言う。ヴィクちゃんに目をかけられ歌劇団の扉の先へ連れていってもらったからだ。
時が流れて、二人の愛は常に高まり続けるが、それに反するように時代や国に翻弄され、求めているバランスはなかなかとれない。
終盤、ヴィクちゃんはズーラと同じように密告者となり、ズーラはヴィクちゃんを救うためにすべてを捧げた。
ズーラが求めた対等を手に入れたとき、そこにはポーランドの衣装もポーランドの歌も、二人の居場所すらなかった。
そしてエンディングのセリフ「向こう側」に繋がる。愛する人と共にいる。こんな簡単なことができる場所が、この時代には「向こう側」にしかなかったのかと思うと非常に悲しい。
15年の時の流れを90分でまとめているので、とてもハイペース。一年を平均6分だからね。
そのため説明シーンなどはほとんどなく、もしかしたら分かりにくいかもしれない。
更に社会派パートとロマンスパートが同時に存在していて凄く複雑。(意味がわからなければ複雑になりようもないので単純とも言えるが)
エンディングのセリフ「向こう側」のように、社会派、ロマンス、どちらにも意味があるようなシーンやセリフが随所にあり、とても示唆的。
とても良くできたイイ映画だと思う。
しかし終盤に向かって徐々に面白くなくなっていくのはちょっと辛かったね