「同じ瞬間に全く違う事を思う三人」バーニング 劇場版 つとみさんの映画レビュー(感想・評価)
同じ瞬間に全く違う事を思う三人
物語が本格的に動き出すのがベンが秘密を打ち明ける中盤なのでそれまでは少々退屈かもしれない。
それでも序盤から物語を紐解く鍵は至るところに散りばめられていて、見逃すと全てがわからなくなる。
はじめからあると信じること、メタファー、生きる意味を求めるグレートハンガー、はじめから無かったかのように消えてなくなること、これらが紐解く鍵であると同時に物語を構成する鍵でもある。
それにジョンス、ベン、ヘミの三人のキャラクター、井戸、猫などが絡んでエンディングへ向け加速していく。
人生の意味を見出だせない三人。ベンとヘミが外に意味を求めたのに対し、自分の内に問題があると思っていたジョンス。彼は言う「世の中は謎なんです」と。
現実を直視せずに空想の中に浸ることが多いジョンス。彼が見るヘミは存在していたのか?無いものをあると思い込んだだけか、または始めからいなかったように消えただけか、もしかしたら水のない井戸に落ちてジョンスが見つけてくれるのを待っているかもしれない。
どれにしても、父の行く末を見守り、母を受け入れ、現実を見始めたジョンスはベンを燃やし、始めから無かったように空想をリセットした。
良し悪しや人生の意味まではわからないが、少なくとも「世の中は謎」ではなくなったと思う。
泣く意味がわからないと言うサイコパス男ベンもまた人生の意味を見出だせずにいる。いや、ある意味すでに見出だしているのかもしれない。
価値のなくなったビニールハウスが消して欲しいと僕を呼んでいるんですと彼は言う。
ビニールハウスを消すことが生きる意味ならば、裏を返せば「価値のない僕を消して下さい」という誰かを呼ぶ心の叫びだ。
ジョンスに刺されたラストシーンで安らかな笑顔に見えるのは彼の考える生きる意味が成就した瞬間だからだ。まあ死ぬんだけどもね。
ヘミは現状を受け入れ生きる意味を問う行為そのものに人生の価値を見出だそうとしているが、本当に価値のあった過去に思い入れがあり、夕日に向かいグレートハンガーを舞う姿は、ベンの目には消して欲しいと願うビニールハウスに写ったことだろう。
生きる意味を感じているヘミ。呼ばれていると感じたベン。裸になったことを咎める現実が見え始めているジョンス。
同じ夕日に向かってグレートハンガーを舞うシーンで、バラバラな三人の思いがバラバラのまま交錯する瞬間は後になって意味がわかる興味深い場面だ。