「文句なく傑作、だけど…」存在のない子供たち ke_yoさんの映画レビュー(感想・評価)
文句なく傑作、だけど…
自分が生まれたことを罪だと親を訴える、こんな悲劇、他にあるだろうか。
最近の邦画作品「Mother」は実際の事件が基になっているが、これだけ子供の権利や福祉が整備されているように見える日本においても親の人間性と価値観で、子供の人生は破壊されるのだから、国にその基盤がないならその恐ろしさはどれほどのものだろう。
親に生まれた日を届け出てもらえないばかりか、記録も記憶もしてもらえない。誕生を祝福されない、人間として扱われない、愛されないなんて。
父親は、自分たちは虫けらのように扱われていると言うが、自分の生み出した子供を虫けらのように扱っているではないか。なんだその矛盾は。
母親は、子供を育てるためなら罪を犯すと泣きながら訴えるが、ニワトリと引き換えにしたり、泣き叫ぶまだ幼い娘を男に渡したりしてるではないか。
育てる苦労を訴えるくせに、また妊娠してるではないか。しかもそれを神からの贈り物だと言う。
娘を失った直後のはずなのに、なぜセックスしようと思うんだろうか。
ディゲストも同じようにとても貧しく、違法滞在中の移民で、決して褒められる育て方ではないが、彼女達親子はゼインのそれと決定的に違う点がある。
「愛してるかどうか」だ。
ゼインは帰らないディゲストに対する様々な感情より、何も出来ないヨナスを守り育てることを優先する。
まるで、自分が本当は親からそうして欲しかったことを与えるかのように、何をしても最優先するのだ。
この優しさ、これが本来なら子を持つのに一番必要なものではないのか。
無戸籍の子供は残念ながら日本にも沢山いる。
我が家には犬が2匹いるが、犬だって登録していれば鑑札から飼い主のデータくらい辿り着ける。身分証があるに等しい。飢えたことも、当然、暴力にさらされたこともなく、空調の効いた清潔な部屋で過ごしているのに…
なぜ人間に、その最低限を与えずにいられるのだろう。
本当にこのメッセージを強く訴えてくる傑作だ。
育てられないなら産むな
こんなことを子供に言わせる世の中であってはならない。