「盛りだくさんの社会問題。考えさせられる。」存在のない子供たち ミーノさんの映画レビュー(感想・評価)
盛りだくさんの社会問題。考えさせられる。
子供はどんな親でも愛するものではないかと思うのは間違いで、無責任に子供を産んだ両親を裁判で訴える、という。貧民窟に住む一家の長男ゼインは年子の妹以下4~5人の弟妹がいる。両親は健在だが失業中で、学校も行かず近所の雑貨屋のゴミ捨てなどの手伝いをしている。一番仲の良いすぐ下の11歳の妹に初潮が来たことから、両親が妹を雑貨屋の男と結婚させるのを知り、妹を連れて家から逃げようとするが失敗し、一人でバスに乗って家出をする。バスで出会った老人をきっかけに遊園地でバスを降り、そこで働くことを思いつくが上手くいかず、出会った若い黒人女性ラヒルの世話になる。しかしラヒルは赤ん坊を抱えた不法移民で、偽造の滞在許可証の期限がもうすぐ切れるのだった。ラヒルの仕事中にゼインが赤ん坊の世話をしてしばらく同居するが、ラヒル自身もギリギリの生活の中、新しい滞在許可証を入手するには大金が必要で、赤ん坊を里子に出せと迫られ、金の工面に奔走するうちに警察に拘束されてしまった。ラヒルがいつまでも帰ってこないので、ゼインは赤ん坊のためにミルクを盗んだり、自動車工場で体を洗ってもらったり、家にあるものを売ったりして暮らすが、市場で同じように花を売る少女からスウェーデンに行けばこんな生活から抜けられると教えられる。ポケットの中に処方箋を見つけ、手に入れた薬を海水で溶かして売り、渡航費を稼ぐが、大家に鍵を変えられて家を追い出されてしまう。背水の陣となったゼインは、すっかりなついた赤ん坊を置き去りにしかけるが、それもできず、同じ手放すなら男に売ることにし、お金を手に入れる。しかし渡航には身分証が必要だと言われ、家に取りに帰るが、父親に「身分証はない。誕生日はわからない。戸籍登録はしていない」(第一子の誕生日くらい控えておいても良さそうなものだが)と言われ、さらに嫁に行った妹が死んだことを知り、激高して雑貨屋を刺し、収監され、ラヒルに出会う。少年院に面会に来た母親が、おなかに弟か妹がいる、と嬉しそうに言うのにゼインは苛立つ。そんな時、テレビの生放送番組が視聴者からの電話に答えているのを見て、電話をかけ、無責任な大人への怒りを伝え、社会に反響を巻き起こす。それが映画冒頭の裁判につながる。
貧民窟というどん底の環境に暮らす人々、多少の盗みは当然になっている暮らし、口減らしのための児童婚と早過ぎる妊娠、不法移民の問題といった厳しい現実社会の一方、何日も赤ん坊を連れ歩く少年をシャワーで洗ってあげたりする暖かな目もないわけではない。また両親が、裁判所でスーツを着た弁護士や裁判官に向かって「こちらの状況にいることが理解できるか」というような言葉は、子供からすれば身勝手な言い草であるが、結局問題はそこに行き着く。
12歳にしては小柄に見えるゼイン、もともとはどういう子なのかと思いながら観ていたが、最後の身分証の証明写真撮影の時に初めて笑顔を見た。