「「良薬、口に苦し」な切ない良作。」存在のない子供たち マツマルさんの映画レビュー(感想・評価)
「良薬、口に苦し」な切ない良作。
以前から気になっていた作品で公開から1ヶ月以上経って、やっと観賞しました。
で、感想はと言うと…正直重いし、胸が痛いし、切ない。
単純に良い作品と言うだけではなく、心に重く迫ってくる迫力で観終わった後の爽快感はありませんが、問い掛けるメッセージが真正面からズドンと響いてきます。
とにかく、貧困の極みのしわ寄せをもろに受けたゼインの怒りや悲しみを超越した感情が物静かな表情から問い掛けが凄い。
何に怒っているか? 両親を始めとしていろんな物に怒りを感じているが、怒りを顕にする以上に生きる事に貪欲。
貪欲だから自分の置かれた境遇に必死に抗ってる。それを子供にやらすか?と観ていて怒りややるせなさを感じてしまいます。
少し中盤で間延びする様な所もありますが、ゼインの苦境がこれでもかと押し寄せてきて、観ていても“もう勘弁して”と言う気持ちなるくらい、重くて切ない。
親からも愛されてなく、最愛の妹が幼くして口減らしの為に他所に嫁がされていく。
家を出て、さまよった中で出会った女性の世話になるが、トラブルから女性は拘束され、訳も分からないまま、その女性の赤ん坊を育てなければならない。
いろんな悪い事もするが、それも全ては生きる為。
やむを得ず、赤ん坊を手放し、生きる為に必要となる証明書を取りに家に帰ると最愛の妹は亡くなっていた事実を知る。
相手の男を刺して、刑務所に入った事で皮肉にも事態が好転していき、テレビで見た児童虐待を取り上げた番組に連絡して、様々な一件が明るみとなり、親を告訴した。
単純に親を訴えたと言う出来事だけで見ると、この物語の訴えかけたい真相の部分は多分理解出来ない。
冒頭で裁判所で両親を訴えるゼインのそこに至るまでの感情がゆっくりと回想されていくからこそ、この物語の深さと言うか、凄みが分かります。
主人公のゼインは子供らしさが殆ど無く、12~13歳では考えられないくらいに落ち着いてる。
クールと言うよりかは達観していて、世の中を諦めた感じから何処か斜に構えた見方をしている。
それが物悲しい。生きる為の選り分けが出来すぎていて、子供にここまで強いる環境は苦境としか言い様がない。
唯一、子供らしさが見えるのは妹のサハルに事になると感情を顕にする所とバスの中で出会ったスパイダーマン擬きのゴキブリマンに興味津々だった所。
このゼインの演技は演技として割り切れない、リアルさをひしひしと感じます。
それが表情と言うか、目で訴えかけてくる。
他のキャストもそれぞれに迫る物がありますが、ゼインの鬼気迫る演技は単純に凄いです。
自分の置かれた環境の悩み苦しみは人それぞれで、単純に比較して解消する物ではありませんが、今の日本でここまでの劣悪な環境は無いだけにスクリーンの映像に映る世界が霞の様に感じながらも決して他人事と割り切れない、リアルな現実感があります。
自分達の周りに普通にある電気・ガス・水道が無いのは当たり前で、そこに仕事も食べ物も殆ど無い環境がのし掛かる。
極めつけは自身を証明する物が無い。
社会との繋がりが不明瞭になり、存在の意義が根底から覆される。
ここに家族からの愛が存在すれば、まだ自分の居場所が見つけられるかも知れないのにそれすら無い。
もう辛すぎます。
ゼインが法廷で裁判官に訴えたのは“育てられないのなら産むな。だからこれ以上子供も産むな”
子供が親に求める事が切なすぎるけど、それが真理。
両親には両親なりの理由があると思う。
でも、そこに同情は出来ない。
ゼインが“本当は皆に愛されて必要とされる人間になりたかった。でもそれが許されない環境だった”
だから、これ以上自分やサハルと同じ不幸の連鎖を産まないで欲しいと思う気持ちからの言葉。
心に突き刺さります。
判決がどの様な結末を迎えたのかは明らかにされてませんが、最後に証明書作成でのゼインの笑顔を作ろうとするが笑顔を素直に作れない、何とも言えない表情がまた切ない。
ゼインはこれ以上の無いドン底を味わいながらも、見失わなかった事は「生きること」
だからこそ、これ以上の地獄は無いと思うから、ラストでの表情からせめて今よりかは前に進める未来であって欲しい。
切実にそれを願います。
映画はハッピーエンドが好きで、楽しく観られるのが良いと思いますが、それでもこの作品は観るべき作品かも思います。
「良薬、口に苦し」と言う言葉の通り、重くのし掛かる物がありますが、この作品を鑑賞した事で何かを感じ、何かを気が付かせられる、鑑賞した人の中に確実に一石を投じる作品かと思います。
CBさん
コメントありがとうございます。
結構重くて、万人に勧められる作品では無くても、観る事でいろんな事を考える作品と言うのは、鑑賞から時間が経つ程に感じております。
楽しい作品ばかりではなく、こう言った作品が鑑賞する幅を広げてくれますね。
お時間がありましたら、また、遊びに来て下さい♪