「すべての大人に突きつけられる現実」存在のない子供たち 琥珀さんの映画レビュー(感想・評価)
すべての大人に突きつけられる現実
劇中、さり気なく語られていたけれど、私が一番記憶に残ったのは少年のこの言葉でした。
「親から受けた一番の優しさ、それは『クソガキ!ここから出て行け‼️』と言われたこと」
くどくどと説明することなく、この親子の関係の本質とこの少年の客観的で冷徹な視線(それはすなわち、この監督が意図したであろう、我々鑑賞者に求める視線でもあると思う)が鋭く伝わってきました。感情を揺さぶられた、で終わることなく、何故今このような現実、存在しない子どもたち、が存在するのか。それを情緒的に受け止めるのではなく、冷徹な現実理解から始めて欲しい、ということだと思います。
現実的な想定として、この映画で描かれているほどの環境に置かれた貧困層の方々は倫理観や道徳という概念を含めて、教育機会が限られており、子どもの将来に想いを馳せるなどという余裕も発想もないのが大半だと思います。親の責任、という概念自体、人類史の中でも比較的新しく獲得したものであり、近代の教育の成果だと思います。
そもそも有料で映画を観て、良心や思い遣りや慈しみなどの観点から何がしかの感情の揺らぎを覚える、という機会はかの親たちには訪れないのではないでしょうか。
ということは、この映画が本当に断罪しているのは少年の親たちではなく、この状況を他人事として看過している、或いは認識はあるのに何もできないでいる大人たち。このような映画を観ることのできる側に幸いにも位置できている、私を含めた大人たちなのだと思います。
150万人のシリア難民や数十万人のパレスチナ難民を抱えるレバノンと日本では環境が全く違うように錯覚してしまいますが、被虐待の状況にある女性や子どもたちへのケアが足らないということでは、大した違いはなさそうです。先日の野田市の事件は記憶に新しいし、『万引き家族』が描いた状況も各種報道から推測する限り、殆ど現実に近いようです。
別のレビューでも同じようなことを書いた記憶があるのですが、偉そうなことを言っても自分が今できることは限られています。もし児童虐待やDVが疑われる状況に遭遇したら、見て見ぬ振りだけは絶対にしない!と思っています。