「こんなライ麦畑オマージュもあり。やっぱりサリンジャーはすごい」ライ麦畑で出会ったら Naguyさんの映画レビュー(感想・評価)
こんなライ麦畑オマージュもあり。やっぱりサリンジャーはすごい
本作は2015年製作だが、まもなくサリンジャー本人を描いた「ライ麦畑の反逆児 ひとりぼっちのサリンジャー」(原題:Rebel in the Rye)も公開される。にわかに"サリンジャー映画"が出てきたのは、おそらく生誕100年記念に関連がある(1919年生まれ)。
そういえば公開中の「マイ・プレシャス・リスト」(原題:CARRIE PILBY)の主人公キャリーが、"いちばんお気に入りの本"として挙げたのが、やはりサリンジャーのか「フラニーとゾーイー」だった。
ジェローム・デイヴィッド(J.D.)・サリンジャーと言えば、1951年の発売以来、いまでも毎年世界で10万部は売れ続けている青春小説の名作「ライ麦畑でつかまえて」(The Catcher in the Rye)が代表作だ。
「ライ麦畑~」は、危うい少年の心理を描き、その後の小説や映画、アニメなどあらゆる青春ドラマに影響を与えた。しかしながら、著者であるサリンジャーの強い意思で、公式には一度も舞台化、映画化されていない。また晩年のサリンジャーは長く隠遁生活を続け、どこに住んでいるかも不明なまま、2010年に亡くなった。
なので、「ライ麦畑~」を映画化することはできないわけだが、サリンジャー愛に溢れる本作は、それを意外な手法でアレンジしてきた。
本作は、寄宿学校生活でイジメられ孤立していた少年ジェイミーが、「ライ麦畑~」の主人公ホールデンに自分を投影し、作者のサリンジャーに会いにいく話である。
ホールデンを彷彿とさせる主人公ジェイミーが学校を抜け出し、成長していく姿は、「ライ麦畑~」へのオマージュ映画といえる。兄へのトラウマや、思春期の心の葛藤、性の目覚めなどが描かれる。
しかも本作の面白さは、実話をもとにしていて、ジェームズ・サドウィズ監督が実際に体験した出来事をベースにしているということ。
インタビューでサドウィズ監督は、"サリンジャーに会いに行くまでの描写のうち85%が実際通りの描写です。それ以降は99%実際通りの描写になっています。」と語っている。
そう、"本当にサリンジャーに会えた!"のである。
映画では、アカデミー助演男優賞も受賞したことのあるクリス・クーパーがサリンジャー役を演じており、そうなると俄然、シーンの見え方も変わってくる。
これまで漏れ伝わってきたサリンジャー像は、町で"ジェリー"と呼ばれ、大人から子供まで愛されコミュニティに溶けんでいただけでなく、住民の間では彼の私生活を口外しないことが暗黙の了解になっていたという。そのあたりの様子も映画では描かれているので、興味深い。
主人公ジェイミー役は、最近「ジュマンジ ウェルカム・トゥ.ジャングル」(2018)に出演したアレックス・ウルフ。公開順が逆になってしまったが、本作(2015)のほうが若い(古い)。
(2018/10/31/新宿武蔵野館/シネスコ/字幕:山門珠美)