「紙媒体の危機に肌で触れさせてくれた」騙し絵の牙 古元素さんの映画レビュー(感想・評価)
紙媒体の危機に肌で触れさせてくれた
予告では「最後のどんでん返し」「騙されるのは誰か」などとミステリーのように謳われていたが、私は違う面で印象的だったので、そちらについて述べさせていただきたい。
学生時代、書店でアルバイトをしていた。年々売れなくなる実用書、文芸書、そして、廃刊や休刊の進む雑誌。それらを直視していて物悲しくなっていた。この作品では、雑誌の中身を見ることによって、より現実を直面させられた。
小さな書店で生まれ育った高野が、新しいことをしてどうにか書店や紙媒体を守ろうとする姿に心打たれた。しかし伝統を守るためと言い、高野の意見を反対する編集室。この大人たちの強すぎるこだわりそして愛が、ひとつの物を壊してしまうのかと思えた。
紙媒体は縮小するかもしれない。だが、雑誌が提供するエンタテイメント、そして文章を紡ぐことは、決して廃れないとも思わせてくれた。
エンタテイメントは、最後速水が言っていたように、ネットであったりAmazon専売であったりで続いていくのだろう。ただ、それだけでは物足りない。そんなところで高野の粘り強さが功を成す。「高野書店」として自らが出版から販売まで携わるようになる。これがどんでん返しだったのかもしれないが、素直に新しい案だと感じた。現実的に困難かもしれないが、こういう書店がこの世に生まれたらいいのにと思えた。
文章を紡ぐこと。これについては城島咲が示してくれた。可憐な容姿の中に孕む、彼女自身を巣食う暗いものを、文章を紡ぐことやミリタリーグッズを集めることが救っていたように思えた。発売を決意した彼女が表紙のトリニティや刑務所での速水との会話によって、彼女の文章が誰かに届き、彼女が救われることを祈るのみだ。
映画は小説とまた異なる内容だそう。『罪の声』も観たいし、塩田作品にも触れたいと思えた。評価が3であることの所以は、単純に予告との差異である。