今日も嫌がらせ弁当 : インタビュー
篠原涼子が忘れられない思い出の弁当とは?
女優の篠原涼子が主演した「今日も嫌がらせ弁当」(塚本連平監督、6月28日公開)は、高校3年間、反抗期の高校生の娘(芳根京子)のためにキャラ弁を作り続けた母と娘の物語だ。自身の代表作となったシリアスサスペンス「人魚の眠る家」(2018)から一転、本音で明るく生きるシングルマザーを好演した篠原が、最近続いている母親役、弁当の思い出や自身の“反抗期”について語ってくれた。(取材・文/平辻哲也、写真/サイトウムネヒロ)
「今日も嫌がらせ弁当」はシリーズ累計20万部を超えるブログ発の同名エッセーが原作。八丈島を舞台に、わざととっぴなキャラ弁を作り、反抗期の娘・双葉とコミュニケーションを取ろうとする母・かおりの奮闘を描く。「(台本は)テンポよく読めました。本だけでもすごく楽しかったのですが、CGになる部分やキャラクター弁当などもあるので、映像になったら、もっと面白いんだろうなと想像をかきたてられました。実際、そういうものが映像でいきていると思います」と話す。
劇中ではスギちゃん、小島よしお、日本エレキテル連合、ダンディ坂野など多彩なキャラ弁が登場するが、お気に入りはホラー映画の貞子だ。「指の1本1本がウインナーになっていて、しかも、血(ケチャップで表現)が付いていて、面白いアイデアだなと思いました。その“指”の1本1本を、芳根ちゃんが食べるというのも、かわいかった。インパクトが強いですね。ホンモノは実際には見ていなかったんで、芳根ちゃんがちょっと、うらやましかったです」と笑う。
その芳根とは、フジテレビ系「ラスト シンデレラ」(13)以来の共演となった。「大人になったな、というのが第1印象でした。でも、謙虚ですごくかわいらしく、お芝居もすごくしっかりした女優さんになられているなと思いました。安心して、お互いに役に集中して、演技ができたなと思います。大人同士で一緒に仕事をしている感じがしました」と後輩の成長に目を細める。
撮影は2018年3月、原作者のKaoriさんが実際に暮らす東京の離島・八丈島で約1カ月行った。「八丈島はすごく素敵でした。空気も澄んでいて緑が多くて……。台風が突然、来たりするんですけども、晴れた時は大きなクジラが背中から潮を出すところも見られたし、ホテルの目の前にはジャージー牛がいて、その牛乳も飲めるんです。撮影も順調で、ほとんど夕方5時くらいには終わったので、夜は幸せな時間を過ごせました。八丈島で撮っている時のスタッフたちはすごく健康的な感じで、幸せそうでした」と充実の撮影を振り返る。
原作者のKaoriさんも、弁当作りのヘルプなどで現場に顔を出してくれた。「Kaoriさんは飲食店をされているので、そこでご飯を頂いたりもしました。弁当にも入っているから揚げがすごく美味しかったです。でも、本物のキャラ弁は食べる機会がなかったんですよ。食べたかったなあ。Kaoriさんは仕事もしながら、寝る時間を削って、3年間キャラ弁を作ったわけですが、すごい熱意だと思います。そのおかげで、今では絆がすごく深まっているんです。実際の娘さんも『お母さんにキャラ弁を作ってもらったことは、自分の一生の一部だ』とおっしゃるんです。娘さんにとっても、大きなドラマになったんだな、と思います」。
実生活では小学校に通う2人の男児の母。弁当を作ることはあるが、「上の子は小5なので、キャラ弁は嫌がるんですよ。みんな男っぽくって、ちょっと恥ずかしいなという感じになっちゃって……。幼稚園の頃は、丸いおにぎりにパンダが鉢巻きしているようなものを海苔で作りましたけど、Kaoriさんのような(凝った)キャラ弁はできないです。時間と労力、技術の問題なので。1回作って、『またやってね』とリクエストされたら、怖いですしね」と笑ってみせる。
自身では、故郷・群馬県桐生市での小学生の時、3つ上の姉が作ってくれた弁当が思い出深いという。「週1でお弁当の日があったので、中学生だった姉がよく作ってくれました。そんなに手がこんだものではないですけども、ウインナー、海苔入りの卵焼き、ちくわにチーズやキュウリが入っているもの、とか。嬉しかったですね。お弁当って、一生懸命思いを込めて作ってくれたんだと思うと、離れていても、作ってくれた人のことを思い出しますよね」。
ここ数年は母親役が続いている。虐待を加える母と、虐待を受けて成長した娘の一人二役を演じた日テレ系ドラマ「愛を乞うひと」(17)をはじめ、吉永小百合と共演した「北の桜守」、代表作にもなった主演映画「人魚の眠る家」「SUNNY 強い気持ち・強い愛」(18)だ。「ホント、お母さんづいていますね。しかも2年間ずっと親、親、親、家に帰っても、親だし……(笑)。自分自身がこんなにに母親役を立て続けにやらせていただく日が来るとは思ってもみませんでした。でも、全部が全部キャラクターが違うので、それぞれやりがいがあったし、楽しかったし、やり飽きた感は全くないです」。
本作もお気に入りの作品になった。「こういうポップな作品は久しぶりだったので、すごく楽しみでした。そういう意味ではタイミングもちょうどよかったと思います。少し暗めの役が続くと、高いテンションで振り切れないみたいなことがあるんです。でも、だんだんやっていくうちに調子が出てきたんですが、振り切れないくらいがちょうどいいのかなって、思いましたね。あんまり、やりすぎちゃうと、わざとらしいし、作品自体も、“どコメディ”というわけでもないので。心情も大切にしながら、計算じみてやるのではなく、そのとき、自分が感じたことを素直に演じていきました」。
劇中では、反抗期を迎えた娘とのバトルが見どころだ。終始笑わせてくれるが、最後には思いがけず、ホロリとさせられる。「それは嬉しい褒め言葉ですね。ずっと聞いていたいです(笑)。私も2回見て、2回ともウルッときました(笑)。自分の作品で分かっているのに、でき上がりを見ると、やられちゃったな、という感じになっているので、すごく嬉しかったです。結構、みなさんに『グッときた』と言われたので、そう思ってくださった人が多いんだろうなって思っています」と手応えを感じている。
ところで、篠原自身には反抗期はなかったのか? 「私は(世間で言う)反抗期真っただ中の15歳の終わりくらいに上京したので、まったく反抗期はなくて、むしろ、親には感謝していました。『ありがとう』とか、『ごめん』とか、常日頃、言っていなかったなと思って。言わなきゃダメなんだなと、すごく気づかされたのが16歳の時だったんです。離れていたので、親のことを客観視できたんです。田舎の温かみとか、親の有り難みがすごく分かってきたんです」と明かす。
また、高校生の娘を持つという役も新鮮だったという。「親の役だけども、親、満載感がないから、よかったかな。(終盤の)病室でのくだりも好きです。本当に心を割って、話せる感じがしていたんです。女同士は友達みたいな感じになるんだなと思いましたね。男の子を持つ母親は、親という感じがすごくするけども、女同士だと、一緒に買い物したり、ランチしたり、映画を見に行ったり……女友達と行動しているのと変わらないところがありますよね。今は息子たちが小さいから一緒に出かけますけども、中学生、高校生ぐらいになったら、嫌がるんじゃないかな。手とか繋ぎながら歩いている親子もいるじゃないですか、うらやましいなと思いますね」。
そして最後に、「女優として仕事をすると、たった短い時間ですけども、その人に成り切っていろんな経験できます。そういう意味では人生を倍生きているような感覚になります。それにしても、違う作品で、いろんな親の役がこんなにもできるんだな、と思いました。もちろん、どんな役でも、やらせていただきたいんですけれども、そろそろ『独身の役をやってみたいな!』という気持ちはなくもないかな」と茶目っ気たっぷりに語ってくれた。