「良作だが邦題が酷い」判決、ふたつの希望 nora3さんの映画レビュー(感想・評価)
良作だが邦題が酷い
シンプルな原題「侮辱」を、なにゆえこのようなダサピンク邦題に変えたのか。安易に希望という言葉を使って、決して単純ではないラストを「なんか良かったよね」で終わらせようという配給会社の姿勢には疑問が残る。このため星半分減らした。
物語に普遍性があるのは確かで、それゆえ政治的予備知識なしでも見に行きやすいというのは本作の優れた点だと思うが、やはり舞台となる中東の現状理解をすっとばして「私たちにも同じようなことあるよね」と言うことには抵抗がある。
映画文法はしっかりしているので、ある程度の事件のバックグラウンドは予備知識なしに理解できるが、パレスチナ難民側のバックグラウンドの扱いが浅いとも感じた。
本国レバノンでの鑑賞者はほとんどが右派だったそうで、左派からはボイコット運動もあった。主人公トニーに対する観客の反感を反転させる必要があったとしても、右派の不当な難民攻撃に口実を与えるような歴史解釈を入れ込んだ点にも疑問はある。作中で争いが法廷外に拡大していくように、映画の外側にも議論は拡大していく。
結果、仲直りには「お互いさま」の気持ちが大事みたいな生温い解釈で「いい映画だった」と言えるほど中東の傷は浅くない、ということが、メタで浮き彫りになっているのではないか。
つまり、この映画は人々の沈黙を搔きまわす、挑発的な映画なのだと思う。なので、このふわふわした邦題が余計に残念。
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