「椎名の魅力がわからない」ここは退屈迎えに来て ニックルさんの映画レビュー(感想・評価)
椎名の魅力がわからない
『桐島、部活やめるってよ』にも同じ突っ込みを入れてしまうのだが、2000年代以降の日本の高校に、ほとんどみんなを惹きつけてしまう求心力のあるアイドル的男子生徒が存在するという事にリアリティはあるのだろうか?俺は出会った事ないなぁ。
まーここを突っ込んでしまうとちゃぶ台もなにもあったものではないのは分かった上で。
成田凌という俳優はそういう役の存在感ではないように思うし、そもそも原作がフィクションを成立させるためにそういう存在を話の真ん中に作り出している事、その手法は自分は好きではない。
そんなフィクションが成立しないくらいにみんながみんなバラバラなのがこの時代だろうと思う。
ここまでは文句なのだけども、そこに目を瞑るとなかなか面白い映画だと思う。目を瞑る価値は十分ある。
山内マリコ原作の映画なら『アズミハルコは行方不明』なんかよりは全然こちらが面白い。
どこがかと言うと、田舎の生活の退屈さを具体的なエピソードではなく、登場人物のセリフと芝居で語らせている所が面白かった。つまり、役者たちの芝居が良かったのだ。
正直言って、東京と地方の二項対立という図式は古いのだけれど、それぞれのキャラクターが放つセリフ(特に柳ゆり菜、岸井ゆきののセリフが良い)には、その人独自の劣等感やコンプレックスが表出されていて、キャラクターの頭の中が垣間見える楽しさがある。口から発せられる言葉が生き生きしている。
20代後半にして閉塞感の繭に閉じこもった彼らの日常は当然ながら激しい関係や対立を生まない。だから、映画はラストを導くためにあざとすぎるプールでの大円団の回想シーンや、成田凌が橋本愛の名前を覚えていなかったというショボいオチを用意するしかない。まーでもそれはそれで、この映画を作る意味というか、気分として悪くないかという気もした。
また、地方都市を10年以上に渡る回想で見せていく時に、いつの時代もそこは退屈な場所でしかない。そこはリアルだと思った。
それにしても、フジファブリックの曲をみんながそれぞれ歌うというのはさすがに嘘を感じさせるし、嘘といえばこの話をどうして標準語で表現するのかが分からない。方言なだけで二倍増しに見える話だと思うのだが。方言指導に時間を割く余裕のない日本のエンターテインメントが憂慮されるし、方言じゃ客が入らないという忖度が働いてるのだとしたらなんとも寂しい気持ちがする。