「多様な価値観を知ることが大人への道」ライオン・キング てらゆうさんの映画レビュー(感想・評価)
多様な価値観を知ることが大人への道
百獣の王とは、数多の動物達を知り、理解し、守る者。
様々な生き方をする動物達の共生世界を作り、その頂点に立つ偉大なる王ムファサ。
ムファサは王としてあるべき姿を、息子であるシンバにも教えていく。
しかしシンバは、その父の教えを、「王は誰にでも指図できる」「全てを手に入れられる」と少し歪んだ捉え方をしてしまう。
子供であるシンバはまだ物の見方が一方向的で、狭い視野でしか物事を理解できていなかった。
それでもシンバは、徐々にムファサの考えを理解していくのであった。
ところが追放先で会ったプンバァとティモンは、これまで教わってきたことと180度逆の考え方の持ち主であった。
最初は困惑するシンバだったが、プンバァ達の陽気さも手伝って、すぐに彼らの価値観に共鳴しだす。
この時もシンバはやはり一方向的な視野で、ナラとの再開後もこの暮らしが素晴らしいと信じて疑わなかった。
しかしナラとの口論、ラフィキと父の幻影の助力もあり、シンバは自分がやるべきことを思い直す。
今まで他人の影響ばかり受けていたシンバが、初めて自分で生き方を決意する瞬間であった。
こうしてシンバは王国を取り戻し、多様な価値観を認め合う共生世界を復活させた。
序盤は身も心も子供だったのが、立派な王へと成長して物語の幕は閉じる。
テーマは価値観と生き方。
そんな壮大なテーマは、実写版となることでより深く表現されていたと思う。
特に印象的なのはフンコロガシのシーンだ。
フンコロガシは玉を転がし、途中石に引っ掛かるも何とか押し越える。しかし勢い余って落下し、結果的に玉は真っ二つに割れてしまった。
他の動物からすれば「何やってんだ」という行為だが、フンコロガシにとってはこれこそが人生。
フンコロガシはフンコロガシなりに生き、壁にぶち当たり、それを乗り越えたり挫折したりもする。
そんなたくさんの動物達の生き様や世界の広さは、実写にすることでより現実的に受け止めることができた。
正しい生き方とは何か、自分らしい生き方とは何か。
ただ正しければ良いものでもなく、ただ自分らしかったら良いというものではない。
そういうことを雄大な映像をもって考えさせられた素晴らしい映画であった。
ただ少し気になったのは、最終的なシンバの生き方だ。
ムファサに教えられ、プンバァ達から学んだそれぞれの生き方。
それを踏襲して今後はどんな価値観を持って生きていくのかは、残念ながら最後見えてこなかった。
王として国に帰るという決断も、自分で導きだした生き方というよりは、「使命感」「責任感」から下した決断というようにも感じる。
結果的に、プンバァ達の立派な生き様が否定されて終わってしまったようにも受け取れた。
「シンバの生き方」という点に最後までフォーカスが当たりきらなかったという点が少し惜しく思い、星は1つ引いた星4評価としたい。