「リアル野生世界を丸ごと映画用に誇張したかのような」ライオン・キング erimakiさんの映画レビュー(感想・評価)
リアル野生世界を丸ごと映画用に誇張したかのような
突出して素晴らしいとまではいかないが、安定した良作、まあまあ楽しめた、という感想です。
●バイオレンスゼロ
現実であればバイオレンスの極致ともいうべき野生の世界だがそのバイオレンス表現は皆無。老若男女、とくに小さな子にもみられるよう意識されているのはディズニーたる所以かもだが野生動物、特に肉食動物の決闘、噛んで引っ掻いて殺し合う場面で血が一滴も流れないというのは不自然ちゃ不自然。だがまあ看過できるレベル。
●汗水流して働く社会人を突き動かすメッセージを見た。
舞台はアフリカのサファリだが、様々な場面で現代社会に通づる、少なくとも日本の都内近郊で日々社会に揉まれつつもがき苦しむ私の心にはダイレクトに響く言葉が諸所にみられた。たとえば父が死んだ場面でシンバはスカーからお前のせいだと咎められ、確かにそう言われると思い当たる部分のあるシンバの心には突き刺さり、地獄に突き落とされるのである。逆に新しくシンバのホームとなった彼の地ではくよくよするだけ無駄であることを教えられ、ある意味逃避ともいえるがシンバは立ち直っていくのである。
まるで人にどう評価されるかで浮き沈みしやすい日本のサラリーマン的気質を突かれているかのように感じたのは早計だろうか。些細なミスでもそれっぽい偉い立場の人に「ありえねーミスだわ」を言われれば極限まで落ち込むが、また別のベテランに「いや、自分も昔同じミスしてたし全然普通だよ。気にするだけ無駄」と言われれば、なあんだそうかとさっきまでの世界の終わりかのような絶望感が嘘のように晴れ渡る過去の自分を見ていたかのようだ。と、予想外の部分で涙腺を突かれてしまった。IMAXメガネ越しに一人涙を流す、30代半ばに差し掛かるおっさんなのであった。
●リアル野生世界を誇張して作り上げた正に疑似体験
CGの凄さはメディアで話題になっている通りで実写と何ら遜色ないと言っても過言ではない。いや実写以上である。まるで現実の野生動物の世界をまるごと撮影し、それをより映画的に誇張してエフェクトやカメラワークなど凝った演出を駆使して仕上げたかのようなとんでもない映像美。
特筆すべきは、本来の動物がやらないような仕草まで違和感なく作られているところだ。例えば言語を話す、もしくはセリフに合ったアニメーションを施す、など。吠える、叫ぶ、食べる、走る、などは本物の動物を参考にできるが(もちろんそれでさえ超絶繊細な作業)、参考にできない仕草をきっちり違和感なく仕上げてくるあたり、さすがは世界のディズニー。
とは言え、本来の動物の仕草、細かい部分も非常によく観察され、つくられている。例えば序盤にシンバとナラが、親から行かぬよう釘を刺されていた場所(ゾウの墓場?)でマグマのような泡立つ液体が飛沫をあげてシンバの顔にかかった瞬間の、あの反射的に顔をふるふるする感じとか、あーこれ猫もよくやるやつだーってなる。あり得ないほどのリアル感、躍動感は必見。
●ややあっけない決闘場面
アクションに関して言えば、動物同士の肉弾戦によるものがほとんどなので、同じディズニーで記憶に新しい『アラジン』の派手なエフェクト満載の魔法対決などに比べるとやや迫力に欠ける感がある。特に最終決戦が割とすぐ終わるのと、殺し合いにも関わらず血飛沫どころが血の一滴もでないなども含め、あっけない、物足りないと感じる人は少なくないように思う。
とは言え、起承転結の明確なわかり易いストーリー、ファニーで可愛い魅力的なキャラクター、とてつもない映像美、総合的に捉えれば万人に受けるであろう良作と言えるでしょう。