「時代を超えて評価されるもの」ライオン・キング ワニ太さんの映画レビュー(感想・評価)
時代を超えて評価されるもの
英語版を公開日に鑑賞。
印象としては原作に非常に忠実。良い意味でも悪い意味でも保守的。変更もCG描写をより自然にするためのマイナーなものに止まっており、再現度の高さに驚いた。(もちろんクスッと笑えるような追加要素もある)
もちろん音楽、音響の美しさは超一流。ハンス・ジマーの名曲の数々は四半世紀の月日を経ても全く色あせることなく、多彩なアレンジをもってリメイクされていて、この名曲の数々を聴くだけでも大変に幸せな気分に浸れる。
映像の美しさはこの上なし。実写さながらのリアリティである。風景描写はもちろん、動物たちの細部に至る描写が非常に凝っていて、特に子ライオンの柔らかそうな毛並みは抱きしめたくなること必至。その他の動物も鳴き声、仕草に至るまで非常に忠実で、製作陣は相当時間をかけて研究したことと思う。夜景描写や動物たちの瞳といったディテールはまさに神の仕事。
ストーリーについては非常に保守的に作られており、ここは賛否が分かれる部分だと思う。物語をより自然につなげられるためにシーンが追加されたり、I Just Can't Wait to Be KingやBe Preparedの歌のシーンでは、リアリティーのために大幅に情景が変更されたりしている。ハクナマタタではプンバァの若かりし頃の姿に思わず笑ってしまった。これらの変更は非常に瑣末なもので物語に影響を与えることはなく、むしろ好意的に捉えている。ただし、シンバとナラが再開を果たしてからCan You Feel the Love Tonightのシーンに至るまでの間があまりにも短く、違和感を覚えた。
ストーリーに大きく手を加えなかったため、ストーリーの元となっている価値観は25年前と変わらない。例えば、作中で語られる結婚観や、ラストのライオン対ハイエナの分断・戦争は、完全に1994年のそれであり2019年の今ディズニーで描かれるには違和感を覚える。種による分断は今日の世界情勢を写しているようで、恐怖すら抱いた。自らの出自や、他者が求める自分像に囚われ、シンバにとって人生のほとんどを過ごした場所であろう森や、育ての親であるプンバァとティモンを顧みず森を去る姿は、原作に忠実といえども今日の価値観に照らし合わせて手放しに賞賛できるものではない。
21世紀の価値観を積極的に取り入れたり、昨今の地球環境を鑑みてサークルオブライフ、他の生命とのつながりをもっと踏み込んだもの(それでも原作よりは克明に描かれている)にするなど、他リメイク作品で見られたディズニーの積極的に挑戦する姿勢が見られればもっと良かった。本作で描かれるストーリーラインは、時代を超えて評価される(べき)ものかと問われると疑問符が残る。
総じて、音楽の美しさ、映像の美しさは期待を超える素晴らしいものであった。ストーリーについては、原作に忠実といった意味では期待通りといったところか。