メリー・ポピンズ リターンズ : 映画評論・批評
2019年1月29日更新
2019年2月1日よりTOHOシネマズ日比谷ほかにてロードショー
大人の中にある子どもの心に訴える、ほぼ完璧な続編!
あの完璧なナニー、メリー・ポピンズが帰ってきた! ジュリー・アンドリュース主演の映画「メリー・ポピンズ」から約半世紀。あまりにも愛されている名作ミュージカルだからこそ、人々に満足される続編作りは並大抵の難しさではなかったはずだ。だが、冒険に満ちた新しいストーリーを語りながらも旧作映画に最大限の敬意を払い、同等の楽しさと胸いっぱいの懐かしさを味わわせ、深く心を揺さぶるテーマを届けてくれるのだから、まさにマジカル。原作ファンにとっても「ほとんど完璧!」と讃えたくなる出来だ。
語られるのは旧作から25年後のバンクス家。幼かったマイケルは3人の子を持つ父となったが、妻を亡くし、大恐慌下で借金を作ってしまった。父が遺してくれたはずの株券は紛失し、屋敷を失う危機に。そこへ、メリーが舞い降りてくる。エミリー・ブラントは、甘すぎだったアンドリュースよりもっとツンツンしてもっと自分大好きな、原作のイメージにより近づけたメリー像(と完璧なパフォーマンス!)で見る者を魅了する。シャーマン兄弟の名曲たちに比べると、楽曲はやや弱い。それでも成功した鍵は、ブラントの好演と、作品のトーンを「懐かしさ」に置いたことにあるのではないか。
物語の核には、マイケルや子どもたちが喪失感にとらわれながらなくした過去を懐かしむ想いと、メリー・ポピンズがマイケルやジェーンのなくした子供心を惜しむ想いがある。そして旧作映画を愛する観客は、新しい物語にワクワクさせられながらもノスタルジーをかき立てられるだろう。旧作と呼応するようなシーンやナンバーが旧作の匂い、楽しさを思い起こさせ、「また会えた」ような感覚をもたらすから。つまり、二重の懐かしさが心に触れるのだ、魔法のように。
たとえば旧作でバートの絵の中に入り、アニメーションのペンギンと歌い踊るあのシーンのアップデートは、ロイヤル・ドルトンの飾り皿(原作にも登場)の中。クラシカルな描き方が郷愁を誘い、サンディ・パウエルの衣装も懐かしスイッチを押しまくる。最高の贈りものは、元頭取ドース・ジュニア役のあの人!
原作ファンとして非常に心を動かされるのは、物語が原作のエピソードばかりか、スピリットを見事に汲んでいる点だ。原作者パメラ・L・トラバースは「メアリー・ポピンズ」シリーズの中で「大人になっても子どもの心を忘れないで」というメッセージを繰り返し語っている。原作にある「ジョンとバーバラの物語」を読めば、琴線に触れるポイントが増えるだろう。これは、大人の中にある子どもの心にこそ訴える作品なのだ。
そして「なくしたものは、本当はいまもそばにある」というメリーの教え。「メリー・ポピンズ」製作の舞台裏を描いた「ウォルト・ディズニーの約束」を見ればわかるように、ディズニー嫌いの頑固者だったトラバースは、8歳のときに他界した父親への喪失感にとらわれ続けていた人。それを思うと本作は、まるでトラバースへのやさしさに満ちた贈りもののようにも感じられる。トラバースもこの続編を見れば、きっと頑なな心を溶かし、及第点をくれるに違いない。
(若林ゆり)