「想像していたものとかなり違ったが良かった」半世界 つとみさんの映画レビュー(感想・評価)
想像していたものとかなり違ったが良かった
観る前は、三人の幼なじみが焚き火を囲って、過去を懐かしみ、今を嘆き、未来に希望を見出だすような、のほほんとした作品だと思っていた。
広い意味ではその範疇だろうが、もっとシャープでシリアスな文芸系の作品だった。
冒頭、瑛介と光彦の二人がタイムカプセルを掘り起こしている。そこに紘の姿はない。三人が幼なじみであることを知っていればここで、事前知識がなかったとしても、最初の正三角形の話のシーンで、「主人公、死ぬんだ」とわかる。
なので、ラストで死んでしまうのだから、それまでに紘は、妻や息子や親友との関係を修復出来るのか?を見る作品だ。
突然、何の前触れもなく死んだと思っている人もいるようだが、ハッキリと「死にます」と言われていたことに気付けなかっただけだ。
自分が住む世界と見知らぬ世界、自分と他人、そして、この世とあの世、見えているものや理解出来るものなど半分もないのだから、他の価値観を否定することなく認めていこうよという感じがタイトルの意味するところだったかなと思う。
光彦の姉の結婚相手の写真を見もしなかった紘たち、相手の男性を拒否する光彦の父親。結婚を決めた光彦の姉には彼女の世界と価値観がある。頭ごなしに否定するものではない。
それはもちろん、他の登場人物たちにも同じことがいえる。
主人公紘の場合はどうだろう?
彼は自分のこと、炭作りの仕事のことでいっぱいいっぱいだ。紘の世界と価値観はほとんどの人に理解されているように見えるし、少なくとも妻は協力的であるが、肝心の紘自身に他者を見る余裕はない。
それが息子に対する無関心になるわけだが、自分が、父親の炭作りを継がせたくないという想いに反発したことの後悔からくる無関心だったのではないかと思う。
紘が息子に対して何かを期待すれば、それに反発しやりたいこととは違う選択をするのではないかという恐れ。
気持ちが入っていなかった炭作りの仕事が、瑛介が帰って来て違う世界のことも知ることで、今の自分の世界を見つめなおし、そんなに悪くないんじゃないか?と気付く。それは息子や妻に対しても同じ。
主演の稲垣吾郎は、事務所を辞めてから目立った最初の仕事かな?だったと思うけど、すごく良かったとは思わなかった。
しかし、池脇千鶴が良すぎたせいで並程度に見えたのかもしれない。彼には頑張ってほしいと思う。