「分かりたい、分かってほしい。」生きてるだけで、愛。 nagiさんの映画レビュー(感想・評価)
分かりたい、分かってほしい。
女優に疎く、趣里さんは知らなかったが、この人でなければここまで引き込まれなかった素晴らしい作品だと思う。
躁鬱と過眠症という、社会生活で理解されにくい病気と戦い、時には打ちのめされながらギリギリで生きる寧子の姿は見ているだけで胸が締め付けられる。
序盤から、目線の動きや話すペースだけで所謂「ヤバい女性」感がリアルに醸し出されており、そこからは寧子の生活に見入ってしまった。
自分を抑えられず夜のアパートでは恋人に当たり散らし、昼間のカフェバーでは借りてきた猫のように縮こまる。バイトを始めては寝坊して白い目を向けられるし、せっかく手料理をしようとしても挽肉は売り切れだし卵は割ってしまう。
一つ一つのうまくいかなさに疲れてしまう様子はとんでもなくリアルで私的には「分かる」のラッシュだった。
特に、優しいバイト先の人達との圧倒的な断絶を感じるウォシュレットのくだりはものすごく共感。
ここでやっていきたい、この人たちと仲良くやりたいと思って素の自分を出したら「おかしい」と笑われ心が折れてしまう。悪意のない本当に些細なことだけど、生きづらさを感じる人にとっては絶望的なんだよね。。
泣いたり怒ったりオドオドしたり走ったりする寧子を抱きしめたくなった。
大人しくて頼りなく、無関心にも見える菅田将暉さんも良い温度感だった。冷めてるようでいて、仕事のことも恋人のことも誠実に考えているのを疲れというフィルター越しにしっかり感じた。
そうそう、仲里依紗さんも趣里さんとはまた違うメンヘラだけど、コミカルな雰囲気が辛い作風を和ませていて良かったなあ。
停電した時に差し込む赤い光や、揺れる青いスカート、最後に裸で踊るシーンの光量など照明がロマンチックで、世武裕子さんの音楽も静かに包み込むようで素晴らしかった。前進したような後退したような、優しいけど切ないエンディングの余韻が気持ちよかった。
分かりたい、分からない。ずっとなんて無理だけど、一瞬だけでも分かり合いたい。
生きてるだけで疲れるけど、生きてるだけで愛おしい。
素敵な作品に出会えて幸せです。