「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ジャパニーズムービー」カツベン! 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ジャパニーズムービー
矢口史靖監督はユニークな題材を手掛けるが、こちらの監督も知られざる世界にスポットを当てる。
周防正行。
学生相撲、社交ダンス、冤罪裁判、終末医療、舞妓×ミュージカルと来て、この最新作で手掛けるのは、
活動弁士!
まだ映画がサイレントだった時代…。
その口上で観客を沸かせた活弁士。
これでも活弁士によるサイレント映画を何本か見た事あるが、知ってるようで詳しくは知らないその世界。
時は大正。それこそ“映画”ではなく“活動写真”と呼ばれていた頃。
日本の映画興行創成期も興味深い。
でも何より、周防エンタメ!
今年の邦画の中で、『男はつらいよ お帰り寅さん』に次いで楽しみにしていた一本。
さて、その感想は…
周防正行の新たなる名作!…ってほどではなかったが、とても楽しめた。
オールド・タイプの邦画が好きな方は気に入るだろうし、作品自体も色々盛り沢山!
まずはやはり、メインの活弁士。
活弁士を主役に据えた作品って確かにあまりなかなか無く、それだけでもめっけもん!
劇中でもそうだが、活弁士のタイプも十人十色。
見事な口上の一流弁士に、甘い声と甘いマスクでスターのような人気の弁士…。
残念ながら今では活弁士はほとんどお目にかかれる機会は無いが、姿形を変えて受け継がれていると思う。
巧みな口上で観客を楽しませるのは、落語と同じ。
声そのものが仕事で、最近人気の“イケボ”とも呼ばれる声優。
活弁士も伝統ある日本芸能だ。
幼い頃から活弁士に憧れ、一流の活弁士になる事を夢見る青年、俊太郎。
そんな彼に、あれやこれや騒動が…!
ニセ弁士として泥棒一味の片棒を担いでいた俊太郎。嫌気が差し、逃亡。うっかり金を持ち逃げして。
一味や警察から追われる。
流れ着いたのは、小さな町の小さな活動写真小屋(映画館)。
そこには、人使いの荒い館主夫妻や曲者弁士らが。幼い頃憧れていた弁士も居たが、今ではすっかり酒に溺れ…。
雑用係として住み込みで働き始めたある日、急遽代打の弁士をする事になり、これが大評判となり、期待と人気の新星弁士に!
…ところが、
ライバル写真小屋の嫌がらせ。
その子分であった例の泥棒一味にバレてしまい…。
そんな中、幼い頃の初恋の相手で、今は女優の卵の梅子と再会する…。
主人公の奮闘と成長。
悪者との一騒動。
初々しい恋模様…。
ドラマにアクションに笑いにロマンスと、たっぷりの娯楽要素。
“娯楽活劇”と言っていい。終盤なんかは完全にドタバタ喜劇。
勿論、ただ楽しいだけじゃない。
憧れの弁士から「人真似」と言われた俊太郎が、“自分”の活弁で語る。
あるトラブルで上手く声を出せなくなった俊太郎が、梅子と一緒にする活弁。その息の合った語り合いは、魅力的なラブシーンのようでもあった。
また、活弁士の仕事とは何なのか?…とも問い掛ける。
作品を盛り上げるように見えて、
作品は画さえ見れればその作品の魅力は伝わる。
活弁士はその魅力は邪魔にしているだけではないのか…?
本作では描かれてはいなかったが、後に来るトーキー映画によって活弁士という仕事は…。
長い映画の歴史に於いて、活弁士はほんの一時だったかもしれないが、それでも確かに観客を沸かせ、虜にしたのは紛れもない事実だ。
最近『さよならくちびる』『愛がなんだ』を立て続けに見てその実力に深く感心し、すっかりお気に入りの役者になった成田凌初の映画主演作。
今作は喜劇なのでそれに合わせての軽妙な演技だが、それでもたっぷり実力は拝見出来る。
それは勿論、劇中で披露する活弁に他ならない。
当初はニセ弁士として人真似だったが、やがて自分の活弁を開拓し、なかでも終盤のある活弁は圧巻!
この主人公の成長や活弁をもっと見たいのと同じように、成田凌の活躍もこれからもどんどん見ていきたい!
ヒロインの黒島結菜がとってもキュート。
そして、個性的過ぎる周りを一人一人説明してたらキリが無いので、特に印象に残ったキャストを簡潔に。
ニヒルな二枚目弁士の高良健吾、ベテラン弁士の永瀬正敏、しつこい悪者・音尾琢真ら周防作品初参加組。
竹中直人&渡辺えり、徳井・田口・正名のトリオら周防作品常連組。
その他豪華な面子によるコミカル・アンサンブル。
日本映画は『國定忠治』や『雄呂血』、外国映画は『椿姫』『ノートルダムのせむし男』『十誡』…。
実際の作品や本作オリジナルの無声劇中劇。(これらに登場する豪華キャストに注目!)
著名な映画人の名も幾人も。
これらは映画ファンだからこそのお楽しみ!
『それでもボクはやってない』『終の信託』などシリアス作品も非常に見応えあっていいが、やはり周防監督の軽妙な娯楽作は楽しい。
今回珍しく脚本は担当せず、片島章三が手掛けた脚本はそれなりに伏線張られたりしていたものの、さすがに周防自らの脚本より纏まりや詰め込み過ぎは少なからず感じたが、充分楽しい。
そう、映画は楽しい。
百年前の活動写真の頃から、今も変わらず、人々を楽しませ続けている。
これって本当に、素敵な事だと思う。