「立つ鳥、そこそこに跡を濁す」X-MEN:ダーク・フェニックス 浮遊きびなごさんの映画レビュー(感想・評価)
立つ鳥、そこそこに跡を濁す
『これが最後』って言葉を3回は聞いた気がするが……
今やディズニー傘下の20世紀FOX製作という意味では
確かに最後になる『X-MEN』シリーズ作品が登場。
監督は『X-MEN:ファースト・ジェネレーション』から
脚本に携わるサイモン・キンバーグ。なお今回が初監督作。
『ファイナルディシジョン』でもジーンさん大暴走は
描かれていたが、『フューチャー&パスト』以降は
パラレルな世界での出来事としてシリーズが継続
されているそうで、今回は『ファイナル~』とは
また別のお話という扱いだそうな。ややこしいのう。
正直、ちょっと評価が難しい作品だった。
単品として観れば上出来とまではいかずともそこそこ
だと思うが、シリーズを通して観ていると色々と
引っ掛かりを感じてしまった点あり(原作コミック
は未読なので、映画シリーズのみの知識ではある)。
...
とはいえ最初は気に入った点から書く。
アクションシーンは前二作ほど大スケールでは
ないが、しっかり見せ場や工夫があって良かった。
スーパースロー対応とかヘリ落とし合戦とか、
『~アポカリプス』のエン・サバ・ヌール並みの特級
能力をジーンが駆使するシーンの数々はかなりの迫力。
マグニートーことエリックも、地下鉄掘ったり大量の
銃をブッ放したりと相変わらずド派手な活躍を見せる。
終盤、疾走する列車での戦闘もダイナミックで楽しめたし、
それまで敵味方だったミュータント達が一致団結して
戦うという展開も、王道ながらもちょっと盛り上がる。
ハンス・ジマー手掛ける音楽も冴えており、
シリーズの最後をレクイエムのように重く締め括る、
悲壮感を漂わせたテーマが非常に素晴らしかった。
だが……アクションや音楽で盛り上がっても、いまいち
ドラマが盛り上がりきらない。シリーズ中でも特に
ダークで悲劇的な内容のはずなのに、僕の場合は
最後まで大きく感情を揺さぶられず終わってしまった。
...
まず、今回の主役ジーンに共感できない。
不幸な境遇には同情する。記憶を操作されていた事も
怒って当然と思う。感情を抑えきれずに被害を出して
しまうのも、人間だし、仕方無い部分はあると思う。
けどその後は、己の過ちを悔いるそぶりも無いまま、
自分の暴走を正当化する為の方便ばかりに終始する
キャラクターに僕には映ってしまった。
鼻白んだのが、エリックとの戦闘前での言葉。
「私を追い出しておいて、今度は殺すの?」
……あのさ、ジーンさん……エリックが「誰の血だ」って
何度も訊いたのに無視したのは、あれがレイヴンの血
だとバレたら追い出されると思ったからなんでしょ?
後ろめたさを隠して都合良く匿ってもらおうと
思ってたんでしょ? ものっそい逆ギレやん。
チャールズに怒るのは分かるが、彼女、他キャラにも
謝罪らしい謝罪って全然しなかった気がするんだけど。
チャールズもね……。
今までミュータントの社会的地位を守るために一番
気を回していた彼だが、X-MENが“ヒーロー”の地位
を得たことで殆ど傲慢とも呼べる人間になっている。
キャラの暗黒面として面白い描写とは思うけど、
全シリーズを人格者として描いてきて、最後の最後
そんなネガティヴキャラで締めちゃうのかと。
逆に、エリックは理性的で良い人“過ぎる”。
あのラストも、本当なら感動的なはずなのに、過去作
の悪辣さがすっかり抜けたエリックはまるで別人で、
僕の中では感動より違和感の方が勝ってしまった。
父エリックと会えず終いのクイックシルバー、
存在感ぼんやりのまま死んでしまうレイヴン、
後半まるで目立たないハンク等も、これが
最後の登場と思うと寂しい。
作り手は恐らく、これまで描かれなかった各キャラの
別の側面を描きたかったんだと思う。だが最終作で
それらを詰め込まれると、今まで慣れ親しんだキャラ
からの変化が急激過ぎて、感情がついてこなかった。
それに、センチネルやエン・サバ・ヌールといった
強敵と比べ、今回の仇敵ディバリ帝国人は強いんだか
弱いんだか分からない上にインパクトも弱過ぎる。
...
監督とか脚本とか以前にね……そもそも
企画の順番が良くないと思うんですよ。
『ファースト・ジェネレーション』はシリーズを
見事にリブートした大秀作だったが、それ以降の
FOXのシリーズ展開はどうも一貫性が感じられない。
作品のスケール的には『ダーク・フェニックス』→
『アポカリプス』→『フューチャー&パスト』のキャラ
総出演で締めるという順番が自然ではと思えるのだが、
『ファースト・ジェネレーション』後にいきなり
『フューチャー&パスト』をやっちゃった時点で
既にスケール的にインフラ起こしちゃってた気がする。
『ドラゴンボール』で言えばセル編の後にフリーザ編を
やって最後になんかベジータ編始まったぞみたいな感じ。
(『ドラゴンボール』知らない人ごめんなさい)
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ジーンのキャラクターが好きになれないという点も
大きいのだけれど、シリーズ最後としては物足りない
スケール感、これまでと方向性が違い過ぎて共感しにくい
キャラなど、単体としての出来以上に『最終作』という
位置付けのせいで色々と割を食ってしまった感のある作品。
それでも最後まで飽きずに観られたので、まあまあの
3.0判定としたが……なんだか不遇な作品に思えます。
<2019.06.21鑑賞>
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余談:
『ファースト・ジェネレーション』で脚本・監督を務め、
他作品の脚本にも係わったマシュー・ヴォーンも、
シリーズをじっくり育てるより安易に売れる路線を
前倒しし続けたFOX上層部の意向に苦言を呈していた。
新世代ミュータントが登場するという次回作
『ニュー・ミュータンツ』からはFOXを買収した
ディズニーがフランチャイズの手綱を握ることに
なるのだろうが、どう仕切り直しを図るんかね。
ありがとうございます。
鑑賞後抱いた複雑な思いを時間をかけて文章に起こそうと思っていましたが、あなた様のレビューで私の感じたことが全て書かれていました。
全く仰る通りだと思います。