「絶対に音を立ててはいけないサバイバル・スリラー90分!」クワイエット・プレイス 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
絶対に音を立ててはいけないサバイバル・スリラー90分!
荒廃した世界。
彷徨うある5人家族。父と母とまだ幼い長女と長男と次男。
気になるのは、彼らは決して音を立てない。
やり取りも手話か聞こえないくらいのか細い声。
物を掴んだり運ぶ時も細心の注意を払う。
危うく物を落とすが、地面にぶつかって音が鳴る前にさかさずキャッチ。
やがて家族は森を行く。
その時、次男が隠し持ってきた飛行機のおもちゃが静寂を引き裂くかのように音を立てる。
凍り付く一同。
森の中で“何か”が猛スピードで蠢き、助けようと駆け付けるのも虚しく、次男は目の前で…。
この冒頭たかだか10分ほどで作品の設定や状況を緊迫感たっぷりに見せる。
そう、絶対に音を立ててはいけないのだ。
何故なら、音を立てたら即“何か”に襲撃される…。
全米では大ヒット&高評価、日本では賛否両論。
個人的にはなかなかハラハラ楽しませて貰った。
ディストピアでのサバイバル×シチュエーション・スリラー×モンスター・ムービー!
やはり何と言っても、この設定!
絶対に音を立ててはいけない。
シーンと張り詰めた静寂の中に、緊迫感が倍増。
映画…特に、ホラーやスリラーには打って付け!
もし劇場で観てたら、咳払いやポップコーンの袋を開ける音も控えただろう。
世界観にも入り込み易く、話自体もシンプル。尺も90分。
台詞もほとんど無い。とある場所でようやく台詞らしい台詞が発せられるのは、開始して約30分後。(ワァ~~~ッ!!…とある場所でのみストレスを発散出来る気持ち、分かるなぁ…)
かと言って飽きる事は無く、寧ろ登場人物の一挙一動に釘付け。
こりゃ確かにどの国でもウケる。
アイデアの勝利!
こういう極限の状況下なのに、やはりやってしまうのが映画のお約束。
何度かミスで音を立ててしまう。
その時のハラハラバクバクと言ったら!
特に緊迫感MAXシーンは、2つ。
地下室の階段の“釘”。
絶対これは後で…。
分かっててもそのシーンが来ると、声を上げたいほど痛い!
さらに、その直後。
妻は妊娠している。
釘を踏み思わず声を漏らしてしまい、“何か”に気付かれてしまった逃げ場の無い地下室の中で、妻は産気付く。
声を上げずにはいられない出産の痛み、赤ん坊は産まれたら産声を。
最悪最大絶体絶命の危機をどう乗り切る…?
微かな物音や無音の中に響く音、ビクッとさせられる効果音。
音を立ててはいけない映画だが、音が本作の醍醐味の一つだ。
『トランスフォーマー』や『GODZILLA』などを手掛け、本作でもアカデミー音響効果賞にノミネートされている名サウンド・デザイナー、エリック・アダールとイーサン・ヴァン・ダー・リンの充実の仕事ぶり。
“何か”の造形も秀逸。
監督兼夫役のジョン・クラシンスキーがオリジナルの非凡な才能を発揮。
そして、妻役には実生活でも妻のエミリー・ブラント。
超絶好調の彼女の恐怖演技がまた素晴らしい。
残念ながら本作でのオスカーノミネートは逃したが、幾つかの映画賞では受賞やノミネート。それも納得。
でも解せないのは、何故に“助演”で…?
『メリー・ポピンズ リターンズ』との票割れを起こさない為らしいが、どう見たって堂々立派な“主演”でしょう!
子役たちも名演。
ま、ツッコミ所は多々ある。
絶対に音を立ててはいけないのに結構ちょいちょい音立ててるし、自分勝手な行動も多いし、“何か”の弱点は耳の不自由な長女絡みのあるものでちとご都合主義。でも最たるは、
妻が妊娠しているという設定。
アンタたち、どういう状況か本当に分かってるの…??
…と、思わず言いたくなるが、こうも考えられる。
冒頭で家族はまだ幼い次男を失った。
その悲しみや喪失はあまりにも大きい。
そんな時産まれた新たな生命。
こんな絶望的な世界でも、新たな家族を、人の種を、絶やしたくないーーー。
本作は単なるキワモノ映画に非ず、しっかりと家族のドラマを軸に据えている。
家族を守る父。
新たな生命を産む母。
次男の死は自分のせいと責め続ける長女。
病弱で気弱な長男は少しずつ勇気を…。
家族がまた一人死ぬ。
自ら犠牲になった“愛の叫び”には胸打たれた。
しかし、この家族に安息はまだ訪れない。
“何か”は襲い来る。
全米大ヒットを受けて、続編の製作が決定。
あのラストの続きを、息を潜めながら待ちたい。