「カンニングの皮を被った社会派青春もの」バッド・ジーニアス 危険な天才たち ちんさんの映画レビュー(感想・評価)
カンニングの皮を被った社会派青春もの
2021年1月30日@Netflix
2020年の年末に、『ハッピー・オールド・イヤー』を観て、チュティモン・ジョンジャルーンスックジンを知りました。
複雑な感情の演技ができる女優だなぁと印象的だったので、デビュー作の本作を鑑賞しました。
ストーリーがはっきりしていて、わかりやすい映画だったと思います。
グレースやパットの人物像は、よくある「金持ちの嫌な奴」という描き方ではなく、精神的に未熟だけど、どこかしら特技や魅力があって憎めない、高校生らしい人物像だと思いました。
リンとバンクは、裕福なグレースらと違って、常に格差の現実と向き合いながら生きている。ゆえに、彼女らの複雑な表現の演技に、観ている側も引き込まれました。
印象に残ったシーンは、
校内でのカンニングがバレて、授業料免除などが取消しになり、リンが家で泣いているシーンは、いくら天才でも、根は家族思いの普通の女子高生なのだなぁと思わされました。
映画での彼女の行動の原動力は家族なのだと最後まで観て思いました。
リンやバンクを取り巻く不条理さも印象的でした。
学校は親から金(賄賂)貰っても咎められないのに、リンがカンニングで金(賄賂)を貰うと咎められる。そんな大人の社会の不条理さに、リンがなす術なく押さえつけられる姿に、観ている側もやるせない気持ちになりました。
また、「STIC」事件の後、受験資格を失ったバンクや試験無効になったリンとは対照的に、なんの努力もしていない金持ちのパットらが、試験の成功を祝い、パーティーを開いているシーンは歯痒く感じました。
格差社会の中で、頭脳や努力だけで報われないリンとバンク、金だけで思い通りになるグレースやパットの対象的な立ち位置が痛いほど伝わりました。
ナタウット・プーンピリヤ監督が、インタビューでタイの教育・学校事情について、次のように語っています。
「現代のタイの教育システムの中では、子どもは勉強ができることが一番大事という価値観があります。でも実際は、子どもというのは勉強以外のほかの分野に情熱があったり、他の分野で才能があったりするかもしれないのに、そういったことは見落とされがちなのが今のタイの現実。なので両親も学校の先生も、勉強のできる子どもばかりに気をかけ、勉強のできない子は、その子なりに必死に親や先生に認められるようもがくように闘って頑張っています」
日本や韓国も学歴社会と言われますが、どこの国も同じような状況みたいです。
勉強ができない学生相手に、カンニングビジネスが流行することはいつの時代でもあることなのだと思います。しかし、その技術や方法は日々進化しており、本作は実際にあった事件をモチーフにしたという点で、現代のカンニングを見せる面白い映画だと思いました。
「スマホ」や「SNS」、「時差」を利用したカンニング法に、“今どき”感を感じました笑