「合わせ鏡」バッド・ジーニアス 危険な天才たち KinAさんの映画レビュー(感想・評価)
合わせ鏡
手汗ダラダラ。とんでもない緊張感とコミカルの緩急にやられて非常に楽しい圧巻のエンターテイメントだった。
「カンニング」というセコい行為を美談にはせず、だからといって変に説教くさい雰囲気にはならずのバランスが良かった。
答えを教えられる側よりも教える側の天才を中心に置いているので、私の罪悪感があまり刺激されずに観られたのかも。
だってあんなの、応援せずにいられないでしょう。
答えの書いた消しゴムを後ろに回すだけで過剰にスリリング、カンニングの規模が大きくなると共に煽りも強くなり悉く起きるハプニングにハラハラドキドキが止まらなかった。
最後はだいぶ心臓締め付けられた。
リンにとっても観客にとっても正しい答えを示されてホッとすると同時に、その先に見えるそこそこ絶望的な状況にショックを受ける、凄いラストだった。
罪は罪、不正は不正。
金稼ぎに目覚めてしまったバンクとは対称的に、真っ向から自分と向き合う覚悟を決めたリンの最後の姿。
彼女の未来も友達の未来も棒に振る行動ではあるけれど、希望を感じる白い光がその周りを包んでいたのがとても象徴的に感じた。
「何とかなるよ」と優しくリンの背中を押す父親も、最初に学校での行動が発覚した時とは全く異なる態度で。
グレースが咄嗟に付いた嘘の、彼氏との旅行の話はどこまで信じていたんだろう。
空港でリンを迎えた時の表情は、一人娘に彼氏が出来てそれを隠されていた寂しさだけには見えなかった。
それにしてもバンクの変化は悲しい…あんなに実直素直で不器用で可愛かったのに。
一連の事件を経て得たお金を使って店を大改装した時、一体どんな気持ちだっただろう。
彼の頭脳があれば名門校を卒業して名門大学を出て良い会社に入ることもできただろうに。
それよりずっと手っ取り早くお金を手に入れ家業も絶やすことのない方法を知ってしまった時に、彼が信じ支えられてきた何かが抜け落ちてしまったんだと思う。
そのなってしまったのは紛れもなくリン達のせいだけど、バンクがまたいつか大切なものを拾い上げられるように願っている。
顔はイケメンなのにパッツン前髪の微妙なダサさが可愛くて好き。ほんとに。
グレースとパットの典型的な金持ち一家の子供感も良い。どうしても憎めない。
勉強は出来なくても人の心に入り込むのが得意で何だかんだカンニンググループの補佐として活躍しているので仕事は出来そう。というか指の動き覚える前に公式覚えなよ!
友情があろうと何だろうと、自分で努力をせず友達を金で買い利用する重さを全く分かっていなかった二人には、これから大層な修羅場が訪れると思う。
持ち前の要領の良さで何とか乗り越え、リンの行動から今一度自分たちのしてきたことを振り返り学べたら良い。
特にパットは倫理観が終わってるので…
少々オーバーな演出がぴったり合っていた。
冒頭からちょくちょく挟み込まれる尋問のシーンが練習時のフェイクだと分かる瞬間は鳥肌モノ。
友情、家庭環境、仄かな仄かな恋心なども組み込みつつクドくならない潔さと爽やかさを感じる映画だった。