「家族を失った男の物語」万引き家族 son1903さんの映画レビュー(感想・評価)
家族を失った男の物語
この映画は、優しいだけで父親としての資格はあるのか?という思考実験なのかもしれない。
そして、その答えとして、優しいだけの男は家族を失った。
以下激しくネタバレ
この映画は、今の日本にありそうもない不思議な家庭が舞台になっている。開始5分で、松岡茉優演じる女性のような聡明そうでいくらでも金の稼げそうな女性がこんな家族の一員に留まって、さらに何もしていないのはおかしい、と思ったが、開始20分での展開が腑に落ちると同時にショックを受けてしまった。この映画は、そんななさそうであるリアリティがしみ込んでいるような映画だ。
男は、社会的には最底辺ともいえるような存在だ。
仕事に対しては、放棄しない最低限の責任感はあるが情熱も何もないし、題名の通り、万引きを子供に教え込んでいるような倫理観のゆがんだ人間だ。
しかし、拾ってきた子供に対する優しさ・愛情は本当に見える。
わが子を虐待するような子供の元の両親とは対照的に描かれているが、男は極めて貧しい環境にあるにもかかわらず子供たちを飢えさせるようなことはしないし、可愛い服を着せ、拙い手品で子供たちを楽しませようとするようなシーンも印象的に描かれている。
ではなぜ男は家族を失ってしまったのか。
男の生き方が、社会の標準的な生き方と乖離してしまったため、
育つにつれて自我が確立してきた少年と相容れないものが生じてきたということもあるだろう。
しかし、少年は男に万引きをやめさせようと思っても、家族の一員でなくなろうとはしなかったのだと思う。
少年が最終的に彼をあきらめてしまったのは、男が、入院した彼を簡単に見捨てて逃げてしまったことだ。
男にとってみれば、逮捕されるかもしれない自分より、警察と病院のお世話になっていたほうがいいという気持ちもあったと思うが、
あそこで少年を見捨てたことが、拠り所のある家というものを家族が信じることができなくなり、家庭が崩壊する最終的な契機となってしまった。
優しいだけでは家庭は維持できなかった、のだ。
社会で生き抜く力、我慢する心…そういった自己犠牲のようなものが必要なのではないかと、
この思考実験は結論付けているような気がしてしまう。
最終的にバラバラになった家族の印象が強烈であればあるほど、
家族で海水浴に行った幸せな思い出が、より幸せに感じられてしまう。