「家族と呼んで」万引き家族 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
家族と呼んで
祝!日本映画21年ぶり!
カンヌ国際映画祭パルムドール受賞!
…でなくとも見たいと思っていた。
何故なら、自分にとって是枝裕和監督作品は10割バッター。
本作製作のニュースを聞いた時から期待していた。
親に棄てられた幼い子供たち。
胸の内を開けばチクチク本音が溢れ出す家族。
子供の取り違え、異母姉妹、血の繋がりの無い家族…。
これまで様々なカタチの家族を描いてきた是枝監督だが、本作でもまた、異色のカタチの家族を紡ぎ出して、問い掛ける…。
父、母、祖母、若い伯母、男の子が一人。
東京の片隅でひっそりと暮らす、一見普通の5人家族。
真面目に働いてもいるが、彼らには家業がもう一つ。
万引きであった…。
冒頭からちょいとドキドキの万引きシーン。
一方が店員らを監視し、注意を反らし、合図する。
もう一方が“願掛け”をし、盗む。
その鮮やかな手口!
…いや、誉めちゃいけない。立派な犯罪なのだから。
でも、作品の掴みとしてはバッチリだ。
彼らが盗むのは、小品小物ばかり。
しかしある日、とんでもないものを盗む。
“仕事”を終えた冬のある夜、アパートのベランダに放置されている幼い女の子を見つけて、家に連れ帰ってしまう…。
作品の本筋については後ほどじっくり考えを巡らせながら語るとして、まずは、
毎回毎回キャストが名演を見せる是枝作品。今回も見事なアンサンブル!
リリー・フランキー、樹木希林、是枝作品常連が是枝ワールドに居るこの安心安定感!
自然体のリリー、希林おばあちゃんはもはや鉄板!
是枝作品初参加の安藤サクラ、松岡茉優。
安藤サクラがさすがの巧さを見せつける。グッとさせられる、引き込まれる名演が要所要所、多々。クライマックスの涙ながらのあるシーンがもう…。
本当に彼女には今、日本映画の女神が降臨しているとしか思えない。こりゃまた、キネ旬主演女優賞獲るわ。
メキメキ実力と評価を高めていく松岡茉優も、出番はそんなに多くないが、アンサンブルの一人に徹し、また、あるバイトで際どいシーンにも挑み、見事!
子役が名演を見せるのが是枝作品の見所の一つだが、本作も言うまでもなく。
堂々した演技を披露した男の子。
難しい役所を見事演じた女の子。
実質、この二人が主役のようなものだ。
彼らが暮らす家。
狭くて、汚ならしくて、物が無造作に置かれて散らかってて、臭いまで漂って来そう。
夏なんかは汗だくだく。
とてもセットとは思えないほど、日々の生活が染み付いている。
レトロで何処か昭和のような面影を残す町並み。
東京にもまだ潜り込めば、こんな風景が残されているとは…。
ここ最近の是枝作品の中でも、規模的にも題材的にも最も小さく、地味。
初期の頃のインディーズ作品を思い出した。
またあの頃のような作風を見れるのは嬉しい。
栄えある賞を獲ったからとは言え、こういった地味だが良質の作品が全国規模で公開されるのも喜ばしい。日本映画だって、アニメや漫画実写ばかりじゃない。
演出手腕も唸らずにはいられない。
前半は、淡々と家族の日々の営みを見せる。
そして後半は…。
ある事をきっかけに、彼らの穏やかな暮らしが崩壊し、この家族の秘密が明かされていく…。
本作製作の着想は、年金受給者の死を隠し、不正に年金を受給し続けたという事件だとか。
勿論それにも触れられるが、それともう一つ、タイムリーとしか言えない最近ニュースを騒がした事件も彷彿させる。
彼らが連れ帰った女の子は、明らかに虐待を受けている。
冬の寒い夜にベランダに放り出し、身体には痣…。
そんな子供を見るのは痛ましい。
手を差し伸べ、助けてやりたいと、常人なら誰もが思う。
でもそれが、警察とか福祉の人とかとは決して限らない。
連れ帰った彼らのした事は、無論犯罪だ。誘拐に該当する。
法を犯したいけない事だとは分かっている。重々分かっている。分かっているのだ。頭では…。
でも…
子供を虐待する本当の親。
頭を撫で、抱き締め、温もりを与えてくれた他人。
どちらが正しいのか。
この家族の“秘密”もそうだ。
公開されたばかりの話題作故、その核心はネタバレで言えないが、端から見れば普通じゃない。
法を幾つも犯している。軽犯罪どころか、重犯罪も…。
これで家族と言えるのだろうか…?
そもそも、家族とは何なのだろうか。
血縁上の繋がり。
しかし、血が繋がり、一緒に暮らしてはいても、家族とは呼べない家族がこの世にどれほど居るだろうか。
確かにこの家族は普通じゃない。
子供に万引きすらさせる。隠し事がある。と言うか、それ以前に…。
が、バラバラだった者同士が集い、営み、繋がり、温もり…。
それらは全て、家族である大前提ではないか。
この家族が幼い子供二人に及ばした影響は計り知れない。
しかしそれは果たして、悪影響だけだろうか。
一緒に暮らした日々…。
それはいずれ、この子供たちが成長する上で、きっと…。
ラストシーンまで、本当に色々考えさせられる。
明確な答えなど無い。
だからこそ暫くは、またふと思い出し、思いを馳せてしまうだろう。
人によって良い悪い、感じ方考え方もそれぞれだろう。
家族とは、育まれるもの。
私はひと時でも、彼らをそう呼びたい。
先日観た『孤狼の血』の白石監督作をよくご贔屓で年間BEST候補の一つに挙げてしまうが、是枝作品もそう。
本年度BEST候補の一つ!
安藤サクラに今、日本映画の女神が降臨しているのならば、是枝裕和監督にはここ数年ずっと、日本映画の神が降臨し続けているようだ。
はじめまして。
度々レビューにいいねくださり、ありがとうございます。
わたしも是枝監督作品大好きです!
今作も儚くて素晴らしい映画でしたね。
おっしゃる通り、安藤サクラさんのラストの演技はぐっとくるものでした。
万引き家族を観て安藤サクラさんのファンになりました。
近大さん、お久しぶりです!
浮遊きびなごです。
当時の近大さんのレビューを探すのが
ちょっと大変だったので(共感票は
とうの昔に入れてた様子)、ここに
コメントしても気付かれるだろうかと
ちょっと不安ですが、大丈夫ですかね……。
好きな映画に関わってる方が亡くなるたびに
悲しくなるんですが、樹木希林さんの訃報は
いつにも増してショックだった気がします。
悲しい映画だったのもあって、レビュー書くのも
しんどかったですが、こういう映画のお陰で
「これじゃいけない」と気付けるんですよね。
改めて、映画に魂を吹き込む見事な役者さんだったと思います。
あ、うわ、なんてこった、『歩いても歩いても』はまだ
観てなかったです。『日々是好日』も観たいですね。
『モリのいる場所』の彼女も愉快で素敵でしたよ!
また色々観直してみるかなあ。
噛めば噛むほど味が出てくるというか、鑑賞してからいろんな方の感想を読んだり、自分なりに考えていく内に、初見では気付かなかったことに気付いたり、新たな視点で見つめて直してみたり…。
いろいろな観方ができる映画ですね。何回でも観返したくなる名画なんじゃないかと思うようになりました。