「良かったです」万引き家族 ポコパンさんの映画レビュー(感想・評価)
良かったです
りんちゃんの表情が次第に明るくなっていくのに、思わず顔が緩み、パチンコ玉を隣から盗んで使う樹木希林さんの笑顔にも思わずクスッとなり、とにかく役者さんたちの演技が自然で素晴らしかったです。
ストーリーの方は、何が善で何が悪とか、そういう明確な決めつけはないんだと。
擬似家族だから家族の絆がより深いとかいうわけでもなく(そもそもこんな疑似家族はさすがに滅多にいないわけで)、最後祥太くんを置いて逃げようとしたのもこの家族だし、このフィクションの家庭をワザと壊して、自分の真っ当な未来に向かって歩き出したのも祥太くんな訳で。
それぞれがエゴや寂しさ、同情心、依存心という泥臭い人間性を抱えている。そしてそれって本当の家族だって同じじゃない?ってことを監督は言いたかったのかなって思いました。
なんでもかんでも一義的に物事は解釈できない。色んなところで可も不可もありながら、バランスとってるのが人間だし、ロクでもなさの中におかしみや人間らしい優しさが垣間見えて、最後にリリーフランキーさんが走ってバスを追いかけるところは、やっぱり泣けました。
※追加です。もう一回くらい観ないと細かなところはわからないですが、この話のターニングポイントは、祥太が自分たちのやってることに嫌気がさしたところ、こんな生活は普通じゃないと思い始めたところですよね。一方で、リリーフランキーさんが演じる治は、捕まったときに「俺には万引きしか教えられなかった」と言っていたように、なんの取り柄も稼ぐ手段も持たないまま歳をとり、日雇いの仕事も続かない一般的にいうダメな人であり、でも実際にそういう人は五万とこの国にもいるわけで。
そういう人が、偽りであったとしてもやっと築いた居場所を、祥太は壊して1人未来に向かって歩き出したんだなと、私は受け止めました。
底辺でしか生きられない優しくて不器用な人々、持たざる人への監督の眼差しを感じる一方で、最後にりんちゃんが外廊下から外の世界を見る目には絶望を感じました。祥太が保護され学校にも行かれるようになった一方で、親元に戻されたりんちゃんには、辛い現実の世界が今後も続いていくわけです。
物語はハッピーエンドで終わるわけではなく、無力で運命に抵抗できない、りんちゃんのような存在が実際にいるわけです。
暗く重い現実から私たちは目を背けることはできない、そう突きつけられてるような気が、私はしました。