「血縁があろうがなかろうが、慈しみ合えば、"家族"」万引き家族 Naguyさんの映画レビュー(感想・評価)
血縁があろうがなかろうが、慈しみ合えば、"家族"
パルム・ドール受賞をうけて、公開予定日から1週間前倒しである。
いつもどおりの是枝アベレージであるが、パルム・ドールがなければ、こんなに大きな箱を一杯にできないだろう。日比谷は満員だ。
これまでの「海よりもまだ深く」(2016)や「そして父になる」(2013)、「誰も知らない」(2004)など、是枝作品がずっと描き続けてきた、"夫婦のありかた"、"親と子のきずな"、そして"人と人の縁"の集大成かもしれない。
他人と他人が暮らし始めるのが"結婚"であり、血縁があろうがなかろうが、互いを認め合い、慈しみ合えば、それこそが"家族"ではないのか。本作はそんな疑問を投げかける。
一般には、"生活"や"世間体"という経済性だけのために寄り添っているだけの家庭もある。
この家族は、ひとりも血が繋がっていない。ひとつ屋根の下、初枝(樹木希林)の年金を目当てに、治(リリー・フランキー)と信代(安藤サクラ)の夫婦、息子の祥太(城桧吏)、亜紀(松岡茉優)が暮らしている。初枝の年金で足りない分は、日雇いやパートタイマー、そして万引きなどの窃盗で生活を成り立たせていた。
彼らは年金生活者や生活保護家庭といった日本社会の底辺層である。なのに笑いが絶えない、家庭らしい家庭でもある。
そこに団地の廊下で震えていた小児・ゆり(佐々木みゆ)を見るに見かねて連れてきてしまう。捜索願いも出さない両親の子供は、"保護"なのか"誘拐"なのか。
是枝作品に、安藤サクラが初参戦。一見、自然体だが、それが計算されている、とてつもない突き抜けた演技を見せる。
そして初主演作の「勝手にふるえてろ」(2017)で実力を見せた松岡茉優が、今までにない少女役を務める。常連の樹木希林とリリー・フランキーを含め、演技巧者が揃いも揃い、さらに子役の役作りには独特の手法がある是枝演出で、じっくり見せる。
カンヌの審査委員は毎年変わるので、受賞傾向があるわけではない。しかし昨年のパルム・ドールの「ザ・スクエア 思いやりの聖域」(2017)は、社会の無関心を風刺していたが、その根っこは、格差社会である。
また、2016年パルム・ドールのケン・ローチ監督「わたしは、ダニエル・ブレイク」もイギリスの社会的底辺層を描いていた。移民問題を含め、生活格差が世界的な映画テーマのひとつになっている。
(2018/6/2 /TOHOシネマズ日比谷/シネスコ)