「不気味の谷」人魚の眠る家 KinAさんの映画レビュー(感想・評価)
不気味の谷
事が起こってからが物語の本題が始まるのは十分に承知していたつもりだけど、いざとなると普通の日常に突然投げ込まれる悲劇にはだいぶショックを受ける。
号泣しながらごめんなさいと謝り続けていた祖母の千鶴子の姿はなかなか強烈。
ほぼ脳死状態の瑞穂に対し、生を信じて執着してしまうか死と受け入れるのか。
そもそも脳の機能が停止したから死なのか、心臓や身体の機能が止まったら死なのか。
医学的にどこかで線引きをつけなければならないとはいえ、境界が曖昧なうえにその判断を愛する家族がつけなければならない現実が辛い。
それがまだ幼い子供だから特に。
最初は良かれと思って始まった「禁断の延命措置」。
意識の無い人間に電気信号を流して身体を動かす技術が普通に凄くて目を見張った。
しかし不気味に見えることも事実。
精巧なアンドロイドに抱く不気味の谷現象のような。
順調に見えても形は歪で、眠ったままの瑞穂にどんどんのめり込んでいく母の姿に危うさも感じる。
しかし誰の行動にも愛が見えるので非常にもどかしい思いになって苦しかった。
生人の誕生日会に起きる大事件にはかなりハラハラさせられた。
それまで少しずつずれ始めてきた家族たちの距離に一気に爆発して非常にスリリング。
結果子供たちの本音や溺水の真実が浮き彫りになりハッと目覚められたから良かったものの、あの薫子のキレっぷりはものすごい迫力だった。
しかしあのまま瑞穂を刺していたらどう判決されたのだろうか。
脳死判定はしてないから殺人罪になったんだろうか。
「喜んで刑を受けます。瑞穂が生きていたことを国に認められたんだから。」
という薫子の台詞に胸がぎゅっと締め付けられた。
最後は綺麗にまとめられてひとまず安心。
少し綺麗ごとすぎるような、どうせなら最期まであの技術を試して歩かせてみたりどんどん範疇を超えるところも見てみたいかも、と若干黒い考えもよぎってしまったのも事実だけど。
要は人体実験でもあるわけで、エスカレートさせた結果に実は臓器提供もできないほど身体機能に無理をさせていたりとか…
そんなのクレームが来てしまうか。
話自体は興味深く感情が入って涙がこぼれることもあったけど、やりすぎなくらい美しく光の印象の強い映像やしつこいモノローグにあざとさを感じて辟易としてしまった。
でも変にリアルに寄せすぎてもしんどさ倍増だしもはやホラーになりそうなのでこのくらいポップに描くのがちょうどいいのかも。
子役の子たちの演技が想像以上に良かった。
播磨家は父親が企業の社長ということもありだいぶ裕福なため満足すぎるほどの延命策が打てることも大きいなと思った。
和昌の体型にぴったり合ったジョルジオ・アルマーニのスーツと、心臓移植の募金を募っていた父親のよれたスーツのコントラストが印象的。
あとずっと引っかかるのが、夫婦の離婚危機のきっかけが和昌の浮気であるということ。
あんな良い人な雰囲気でいたけど、でもあんた浮気したんじゃん?と色眼鏡が最後まで離れなかった。
どんな子とどんな浮気をしてどうバレたのか詳しく教えてほしい。地味にスキャンダルですよ社長。
もし自分の家族がこんな状況になったらどうするか?もし自分が脳死状態になってしまったらどうしてほしいか?
置き換えて考えてみてもなかなか答えは出ない。
ドナーカード持っておこうかなと思うこともあるけど、眠ってる自分の身体が知らぬ間に抜き取られる恐怖も正直あるじゃない。
常々「死」がすぐ隣にあることをまた一つ実感した映画だった。