劇場公開日 2018年6月1日

  • 予告編を見る

「解放」ビューティフル・デイ Raspberryさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5解放

2023年4月20日
iPhoneアプリから投稿

中年男と少女、ニューヨーク、売春宿、選挙活動とくれば『タクドラ』か?いやいや、『レオン』か?

どちら風でもなかった。リン監督から現代の男性に贈るメッセージのようだった。
別にカッコ良くなくていいんじゃない?
“オレはやってやるぜ‘’とか‘’背中で語る切ないオレ”みたいなヒーローイズム、もう要らない。
女性(弱い者)と心を通わせて愛を知るなんて、付き合っていられません。男も女も自分のことは自分で解放しよう。

主人公は、父親の虐待によって強い男性像を刷り込まれ、戦争を体験し、生々しい暴力を生業にしてきた。肉体と心が乖離してしまった彼は不眠症と自殺願望に苛まれている。

かつて、父親が彼や母親に対して使ったハンマーで、力まかせに殴り殺す。苦しみと悲しみを吐き出すように。

主人公が自殺せず、なんとかこの世に留まっているのは、母が人生の重石(おもし)になってくれていたからだ。
その母に重石をつけて湖に弔ったとき、変わるチャンスが訪れた。

権力者に利用されている殺し屋刑事は、敵と言うよりむしろ自分に似た存在だった。鎮痛剤を飲ませ、手を握り、歌を歌った。主人公(男性)の心に宿る共感力が見えた。

そんな主人公とは対照的に、少女は冷静に一撃で急所を斬っていた。
血だらけの指で手づかみで食べながら、ナイフとフォークを持ち直す仕草に、彼女(女性)の本能的な理性を感じた。

彼女が、売春宿の顧客のニーズに応えた薄手のキャミソールから、自分の意志で選んだジャケットに着替えたとき、主人公も鑑賞者も前に進む。

今日は良い天気よ。そだねー!それだけでいいね!
ストローでズズズっと吸う音で終わり!こんな潔いラスト、見たことない。

男性像・女性像をステレオタイプにしない。一つの物語としてさっさと終わらせたところがミソ。リン・ラムジーは生ぬるいところがない。

You Were Never Really Here。不快な感情は、本来の自分から乖離しているというシグナル。自分のシグナルがしっかり機能していることを知って、本来の自分に戻ることを進めよう。

Raspberry