「夢の国の周辺もまた」フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法 Toshiさんの映画レビュー(感想・評価)
夢の国の周辺もまた
予告で気にはなっていたが、そう大きな期待なく鑑賞。傑作だった!
フロリダのディズニーランド周辺の安モーテルにはお金も行き場もないひと達が住んでいる。そのなかのひと組の母娘を中心に、ひと夏の物語が紡がれる。ちいさな娘ムーニーの視点で描かれるちいさな冒険が、最初のうちは微笑ましいというよりも、危なっかしくイライラさせられる。子供視点なのでカメラも低く視点の先もクルクル変わる。自分が子供の視点をすっかり忘れてしまったと自覚させられる。母親のヘイリーも子供のまま年齢だけ取って子供を産んでしまったような女性。彼女にもイライラさせられる。この母娘の周辺にいる人びとも程度の差はあれ、似たような境遇にある。安モーテルに住まいながら犯罪スレスレの事をやって日銭を稼ぐヘイリー。しかしムーニーの日常は冒険に満ちている。夢の国の中へ入れなくても。彼女達を付かず離れず見つめるモーテルの管理人ボビー。彼に出来る事は限られているが要所要所でこの危なっかしい母娘を助ける。ウィレム・デフォー好演!普段はあまり踏み出さないボビーがムーニー達に近付いた幼児性愛者にぶつける激しい怒りのシーンは、巧妙な演出と相まって深く印象に残る。ヘイリーもムーニーに対する愛情だけは無限大。生きる術をあまり知らない女性だがムーニーがいるから何でもやるんだろう。いつしかこの母娘を愛おしく感じる自分がいた。
しかし子供たちの夏もいつかは終わる。しかも唐突に。それを見つめるボビーの呆然とした表情のあとに、今まで一度も泣かなかったムーニーが号泣する。
こちらも号泣…
映画は夢の国を見せない。外観も内部も。夢の国とムーニー達の世界を隔てる幹線道路には終始巨大なトレーラーや車輛が轟音をあげて走っている。道路を越えて夢の国が初めて姿を現わすラスト。ムーニーはこれからどう生きていくのだろう。
鑑賞映画館は日本の夢の国。観終わって余韻に浸っていたらこの夢の国の周りも轟然と走るトレーラーや車輛に囲まれていた。