「あり得ない世界観で普遍的な愛を叫ぶ、みたいな。」君の名前で僕を呼んで ムビタイさんの映画レビュー(感想・評価)
あり得ない世界観で普遍的な愛を叫ぶ、みたいな。
まず、鮮烈に始まるオープニング、余計な詮索なしに一気に「イタリアのどこかでの物語」の世界に入り込める。
一般市民からは想像し難い主人公一家の裕福そうで、とても文化的なバックグラウンド。多くの方々が指摘する美しいイタリアの風景。淡々としつつもクラシックから現代音楽、80年代当時のヨーロピアンディスコナンバーとスフィアン・スティーブンスの書き下ろしを含む楽曲が絡む…と美しい要素だらけなのだ。名と暗の画の対比、効果的なピンボケ使い、音楽は含めた世界観の構築…ルカ監督、これまでノーチェックでありました。
ここで描かれることは、決して浮世離れしていない共感性の高い物語。思春期特有のアンビバレントな感情であり、性の目覚めや恋愛感情を知ることであり、両親からの愛情だったり…(まあ、自分的には実現できなかった理想的世界観なんですが)。同性への思いを異性への性衝動に転化させちゃおうとする事、ようやく想いが遂げられたあとの抑えられない身体の反応、だとかは、当事者の端くれ、ちょっと理解できます。そこは流石、脚色をされたジェイムス・アイボリー巨匠です。生々しさと下品にならないさじ加減といいましょうか。
二時間以上、観る方によっては冗長と思われるかもしれませんが、僕自身数シーンを除いて、むしろこのテーマを各エピソードを丹念に重ねることで、全キャラクターをないがしろにすることなく、事の始まりから終わりまでをきっちり描ききったと思いました。それはきっちり尻尾まであんがつまった鯛焼きがごとく、エンドタイトルまでがみっちりストーリーになっている、濃厚な作品でした。
そして勿論、これを演じきったティモシー・シャラメは素晴らしい役者さんだな、と。この年代でこのキャラクターの非凡さと感情の揺らぎを演じきったのは永遠ものだな、と。これからどんな成長を遂げるのか楽しみです。
あと、横浜ブルクのような大手シネコンですらゲット出来なかったパンフレット増刷を切に願います。