「愛は愛であり愛でしかなく愛なのであり愛以外の何物でもない」君の名前で僕を呼んで Michilさんの映画レビュー(感想・評価)
愛は愛であり愛でしかなく愛なのであり愛以外の何物でもない
アンドレ・アシマンによる同名小説(2007年出版)を映画化したもの。舞台はイタリア北部。コロンビア大学のギリシャ・ローマ考古学教授の別荘で、6週間過ごすことになった教授のアシスタント、20代のオリバー(アーミー・ハマー)と、教授の息子で知性溢れる17歳のエリオ(ティモシー・シャラメ)が、細胞レベルで恋に落ちるお話です。オリバーもエリオも(因みに主演俳優たち自身も)決してゲイというわけではありません。しかし、ふたりの関係は、セクシャリティを超え、相手を求めてやまないほどに発展していきます。同時に物語は、17歳のエリオが、オリバーとの特別な関係を通じて、少年から青年になっていく成長を描いています。
映画を観た後の余韻は、言葉になりませんでした。まさに筆舌に尽くしがたい感動を与えてくれます。しかも、観た直後より、時が経ってから、じわじわと心に染み入っていくのです。この映画の素晴らしさは、美しい音楽や景色などを背景に織り成す、エリオとオリバーの繊細かつ美しい関係性だけでなく、彼らを取り巻く(特にエリオの家族の)優しさと哲学にもあると思います。この作品は、恋愛対象が同性だということは問題にしていないのです。だからこそ、まっすぐ「心」に向き合える・・・本気で人を好きになる、その痛みと、喜びを、素直に、生で感じるのです。すべてにおいて、普遍的で、そして優しさに溢れた映画でした。今までのような悲劇的なものとは違う、新しい同性同士の愛を描いた映画ともいえます(物語は原作の途中で終わります。続編(原作には抜けている部分を原作者と相談の上創作予定)が2020年公開予定だそうです)。アーミーとティモシーの両者は、原作(小説)と監督(グァダニーノ)に対する愛と尊敬のもと、互いに惹かれ合う役を、見事に演じました。ティモシーの演技力(語学力、楽器を弾くシーンは特に)、高く評価され、賞を総なめにしています(23賞:11の最優秀男優賞、12の新人俳優賞)。全裸になるシーンなどないのに、ここまで官能的な映画は今まで観たことがありません。レビューを書きながら、こんな拙い私の言葉よりも先ず、できるだけ多くの人に観てもらいたい、という気持ちでいっぱいです。
素晴らしい原作に加え、ジェームズ・アイヴォリーによる美しい脚本、サヨムプー・ムックディプロームの見事な撮影(自然な休暇風景を作るため、カメラ1台で撮影)など、すべてにおいて、完璧なまでの調和を生み出すことに成功した、ルカ・グァダニーノ監督は、アーミーとティモシー両俳優と共に、この作品が代表作となることは確実です。インデペンデント映画としては前代未聞の評価を得ています。グァダニーノ監督の家の近くで撮影したイタリアの小さな町での撮影環境と、撮影前1ヶ月以上の滞在期間は、アーミーとティモシーの距離を一気に縮めたようで、その後もふたりは親交を深めており、私生活でも「かけがえのない存在」になっていると公言している点も、この映画のファンにとっては嬉しいことです。ぜひ、「桃」も堪能してもらいたいと思います(このシーンの重要性については、4月に出版予定の、日本語版原作も読むことをオススメします)。(本レビューの題名は、迷いに迷った末、両俳優が今作を一言で表わす際によく使う名言より引用しました)